自然エネルギー促進のための共有経済の試み

自然エネルギーへの転換を進めるために,市民にできることはなんでしょうか.私は時々そういうことを考えます.今日は共有経済という考えを使って,自然エネルギーへの転換を図っている人達の記事を紹介します.

共有経済 (Sharing economy) はモノやサービスという資源を共同で利用する形の経済活動です.ソフトウェアの共有という形で Open Source が,オークションの共有という形で eBay が,Uber のような車の共有,Airbnb や CouchSurfing のように部屋の共有などがあります.もちろん,時には行きすぎて共有の範囲を越えてしまう問題なども含みながら,それでも様々な共有経済がでてきています.

自然エネルギーも共有経済を使えないでしょうか? 私はアパート暮らしで,屋根がありません.ソーラーパネルを自分の家の屋根に置くことはできません.風力発電機を置く庭がありません.しかし,IT の力で同じことはできないでしょうか.屋根はあるが,ソーラーに投資するお金がない人と,ソーラーに投資したいが,屋根がない人をつなぐのはどうでしょうか.

実はそういう経済が始まっています.2015年 4 月にソーラーの共有をはじめたのは,Yeloha [1] というアメリカのスタートアップです.たとえば,65 ドルで1 枚のソーラーパネルを 1 年間借りることができます.発電した電気は,屋根を貸した側が買ったり,売電し,そのうちの何割かが投資者に戻る形になっています.これで投資対象になるほどのお金もうけができるかというと,それははっきりしないのですが,自然エネルギーの発展を望む市民が少しだけ投資することに参加できるようになります.そしてそれは自然エネルギーの発展に寄与できます.Yeloha では,屋根を貸す側の地理的条件や,建物などを判断して年間どれだけの電気が作れるかなどを評価するソフトウェアを開発しているようです[2].

このような考えやビジネスが小規模の風力発電,バイオ発電などにも適用され,自然エネルギーの発展を進めてくれたらいいなと私は考えました.こういうものが日本やドイツでもでてこないかと期待します.

現在(2016-1-23(Sat)),原油の価格が下がっています.これでエネルギーの価格が少し安くなるでしょうが,こういう時にこそ地産地消の自然エネルギーに投資しておくのが良いと私は思います.再びエネルギー価格がグローバルで上がった時への備えとなるからです.

参考文献

  1. Yeloha, http://www.yeloha.com/
  2. Lauren J. Young, Startup Profile: Yeloha Brings Solar Into the
    Sharing Economy,
    http://spectrum.ieee.org/at-work/start-ups/startup-profile-yeloha-brings-solar-into-the-sharing-economy,
    IEEE Spectrum, Nov. 2015

JunさんとKimさんとの出会いー韓国における活動

先日に日本に一時帰国したとき、東京のある人と話していて、東日本大震災と原発事故のことを話題に出してみた。

「ああ、そんなこともありましたねえ。」

もうだいぶ昔のことで、もうそれは解決されているかのような言葉に、ちょっとショックを受けた。

人間は「喉元過ぎれば熱さ忘れる」性分だが、あの大惨事の直撃を受けた被災地の人々が強いられた損失は埋められず、もう住めなくなってしまった土地や放射性廃棄物は横たわり続け、今も放ち続ける放射能、そこから生まれる差別や搾取構造などを考えれば、何も解決されていないし何も終わっていない。

放射能のように、それそのものが目に見えないものを問題だと意識するにはそれなりの知識が必要だし、それを周囲に伝えて理解を促すことは簡単ではない。でも、その恐ろしさを知り、またそれが先の世代に対して大きなツケになってしまうと知ってしまったからには、何事もなかったかのように何もせずにいることは、未来に対して無責任だと思わされる。

その簡単でないことを、韓国で続けているJun Sun Kyungさんに出会った。

きっかけは、Sayonara Nukes Berlinメンバーが書いたドイツのブルーベリージャム放射能汚染のブログ記事を見つけたJunさんが、ベルリンに行くのでSayonara Nukes Berlinのメンバーと意見交換したいとコンタクトしてきたことだ。

Junさんはソウルで「安全給食連帯」というネットワークの代表をしている。2人のお子さんを持つJunさんは福島の原発事故以来、食品の放射能汚染の危険性を認識するようになり、子どもたちが学校で食べる給食に放射能に汚染された食材を使わないでほしいと行政に訴えたり、放射能に汚染した食品から子どもを守るための法律作りを目指してロビーイングをしたり、ソーシャルネットワークを活用して情報発信している。

JunさんとKimさんとカフェでお茶を飲みながら。
JunさんとKimさんとカフェでお茶を飲みながら。

「韓国でも、反核については関心はあるが、放射能汚染食品による内部被ばくについては、あまり関心を持ってもらえない。やはりだんだんと人々の関心が薄れてしまって、一緒に活動していた仲間も日常の忙しさのために少なくなってしまいました。」 しかし、明るいJunさんの顔に「だからあきらめる」というネガティブな影はなく、むしろ「だから続けていかなければ」という頼もしさが光る。

人々の関心が薄れようと、放射能はそこにある。出てしまったのだ。

チェルノブイリ事故で低線量被爆国であったドイツは、現在も健康被害が続いているという。*1

日本でどれだけ低線量の汚染食品による長期的内部被爆について認識されているだろう。

日本では、有名人がブログで放射能汚染食品についてちょっと不安をもらしたら、ものすごいバッシングにあったとか。怒りを向ける矛先が違うのではないか!と思う。人々が正直な不安を口にすることができない世の中の空気を作り、「食べて応援」とか「風評被害」などという言葉を隠れ蓑に、本来その怒りを受け止めるべき東電や原発メーカーそして、政・官が、その責任を免れている構造になっていて、結局私たちもそれを容認しているような状態だ。

Junさんのように、子どもを守るため「欲しくありません」と声をあげてもいいのだ。そうした訴えは、批判されたり排除されるべきものではなく、吟味されるべきものなのだ。何よりも「いのち」にかかわることなのだから。

Junさんの今回のドイツ視察の旅には、ソウル市のエネルギー市民協力課で働くKim Hyeon Suさんも同行し、Sayonara Nukes Berlinのメンバーとの会合に同席し、ソウル市の状況をシェアしてくれた。

 

現ソウル市長の朴元淳(パク・ウォンスン)氏は、ソウル市長に当選した翌年の2012年に、原発一基分の発電量に相当するエネルギー削減を目指し、 ”One Less Nuclear Power Plant政策”を打ち出した。きっかけは2011年9月に韓国で全国的規模で起きた大停電。162万世帯が影響を受けた。福島第一原発事故が起きたばかりで、人々の原発に対する不安も高まっていたころだ。行政と市民が協議を重ねた結果、1000万世帯のソウル市の未来に安全で安定したエネルギー供給を引き継ぎたい、という思いから、このOne Less Nuclear Power Plantは始まった。ソウル市にエネルギー設計所が創設され、Kimさんの働くエネルギー市民協力課も設置され、発電、効率化、節電などに関連する71のプロジェクトがデザインされた。

ソウル市のOne Less Nuclear Power Plant Projectの冊子
ソウル市のOne Less Nuclear Power Plant Projectの冊子
2014年までに2百万TOE(1TOE=11.63MWh)のエネルギー削減を目標を立てたが、6か月早く目標値に達し、現在さらに原発もう一基分のエネルギー削減をめざすプロジェクトの第2フェーズ”Seoul Sustainable Energy Action Plan”に入っているそうだ。
2014年までに2百万TOE(1TOE=11.63MWh)のエネルギー削減を目標を立てたが、6か月早く目標値に達し、現在さらに原発もう一基分のエネルギー削減をめざすプロジェクトの第2フェーズ”Seoul Sustainable Energy Action Plan”に入っているそうだ。

公的施設の屋根を市民組合などに貸し出したり、小型ソーラーパネルへの市の補助など、Kimさんからいろいろお話をうかがうと、ソウル市は進んでいるなと感じる。Kimさんから頂いた冊子を読むと、鍵はリーダーの決断力と計画段階からの市民の参画だと思う。一国の首都が国内の脱原発・エネルギー転換のモデルになるという姿はうらやましい限りである。

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20年前に日本に2年間留学していたというJunさんの日本語と、韓国語が流暢なメンバーの通訳のおかげでお二人と良い交流を持つことができた。消えそうな火も連帯すれば灯り続ける。

 

参考:*1 福本まさお著『ドイツ・低線量被爆から28年-チェルノブイリは終わっていない』

http://sayonara-nukes-berlin.org/?p=105

http://sayonara-nukes-berlin.org/?p=266

安全保障と経済成長のためのエネルギー転換(脱原発)

ここ数日でいくつかの面白い記事や本を読みました.そのうちエネルギー政策のもので面白かったものを1つ紹介したいと思います.

ふくもとまさお,ドイツ・メルケル政権の脱原発の現状,月間「社会主義」12月号

以下はこの記事を読みながら私が考えたことです.

福島第一事故と世界の脱原発を考えた時,事故の起きた国の首相の菅氏と比べられることがあるのがドイツのメルケル氏です.当時メルケル氏が脱原発を決定し,それを世界にアピールする中,菅氏にはそれができなかったというふうに私は単純に思っていました.当時,メルケル氏が作った委員会の名前は,「エネルギー安定供給のための倫理委員会」[1] と言います.私の印象としては最後の「倫理委員会」が一人歩きして,まるでドイツは倫理や道徳で原発を止めたように思っていました.つまり,メルケル氏は福島から学んで倫理から脱原発をし,菅氏はできなかった.私はこう誤解していました.しかし話はそう簡単ではなかったのです.誤解を恐れずに言ってしまえば,「安全や倫理だけで原発を止めたわけではない」のです.この委員会には原発という文字が入っていないことにも注意がいると思います.「脱原発のための倫理委員会」でもなかったのです.反原発の記事の中には,この決断からメルケル氏はすごい,というものもありますが,逆に,いや,日本とドイツは違うから参考にならない,だから日本では脱原発は無理だという論調もみかけます.しかしそれは表面的です.ドイツにも当然利権の問題はありますし,メルケル氏は20年前には原発推進派でした.2011年のこの決断だけを見て判断するのは早計にすぎることをこの記事は教えてくれます.

メルケル氏はもともとは原発の推進派で1997年には原子力発電所の安全規制を緩める法律を作成しました.しかし,翌年の選挙で社会党と緑の党の政権となり,この法律は撤回されました.その後,ドイツの脱原発は2000年頃に決定されました.その計画の延長などの紆余曲折はありました.しかし,2011年のメルケル氏の決断はその計画を多少前倒しにしたにすぎず,基本的な計画の変更はないのです.実際のこの政策の原動力として,もちろん大きな市民の努力はありましたが,コストと安全保障と経済成長の戦略の一部であることが書かれています.簡単に言いすぎかもしれませんが,安全保障と国際権力と金のためには原発が邪魔だっただけなのです.

まずは安全保障です.どうして発電方法が安全保障に関係するのでしょうか? たとえば石油です.石油の輸入に頼る国では石油の輸送の安全や産油国の影響を受けます.輸送路の安全を確保するためには軍隊も負担しなくてはいけないのかということになることもあります.しかしもし,エネルギーを自分達の国の中で作れたらどうでしょうか? 自分の生活の基盤を他の国の資源にほとんど頼ってしまうと,世界のどこかで紛争が起きたらその度に戦争に巻き込まれてしまうかもしれません.それは国内でコントロールがきかないという意味で,国の安全としてはあまり良いことではありません.ではウランはどうでしょうか.石油と同じくウランを産出する国は限られています.ですからウランも石油と同じ問題があります.そして石油もウランも限られた枯渇する資源ですから,いつかは足りなくなって値段が上がり,そこでまた争いが起こるかもしれません.近年,ガスのパイプラインが政治に利用されることがありました.「あんまり私達の言うことに耳を貸さないのなら,ガスの通りが悪くなるかもしれない」という事件も起きました.国民の生活が海外の政治圧力におびやかされてしまう.自分達の生活を自分達でどうにかすることができない.国民生活の安全保障の問題です.だからと言ってその度に軍事力でどうにかしようというのもとても高くつきますし,命が失なわれます.誰かの生活を守るために誰かが死ななくてはならない世界を未来として考えていくのは時代後れのように私は思います.

エネルギーの独立性に対して,かつて世界で注目された技術の1つが高速増殖炉でした.もしこれができたら安全性はともかく,エネルギーの生産は国内でできそうです.しかし,あまりにも難しい.アメリカ,ドイツなど撤退する国があいつぎ,今は4ヶ国しか残っていません.今でも実用化はまだまだというのが現状です.

いくつかの国は他の方法を考えました.自然エネルギーもその1つです.太陽,風,バイオマス,地熱,水力,などなどです.これらのエネルギーは比較的地球上のどこでも入手できます.つまり,自然エネルギーの利用は,エネルギーの問題で他の国の戦いにまきこまれにくくなります.安全保障を守りやすくなります.また,戦争やテロを考えると原子力発電所は攻撃目標になった時には危険なものですが,太陽電池パネルや風力発電は原子力発電所に比べれば危険さは少ないです.これが理由で新規の原発を作るべきではないとしている国もあります.[2]

そこに経済成長戦略が持ちこまれました.しかし成長戦略と自然エネルギーの関係もすぐには見えません.特に,自然エネルギーは集中して大量生産することに向きません.ですからそれぞれの土地で作らなくてはいけません.それは集中型のトップダウンの方式には合いません.集中型のトップダウンの方式では誰かが集中的に作ってそれを分けることになります.これはお金を集中させることで効率良くできる利点がありますが,しっかりと社会が監視しないと「あんまり私達の利益を考えないのなら,電気が止まってしまうかもしれないよ」と言われる危険性があります.集中方式は誰か特定の人が利益を得る仕組みを作りやすいのです.かつての産業はお金を集中させて道路や鉄道という生活の基盤を作って都市に人を集中させて効率を上げました.自然エネルギーは集中が難しいので,そういうモデルには合いません.だから上手くいかないのだという考えがあります.

しかし,それでは地方はさびれる一方です.お金はどんどん大都市に集中してしまいます.地方を活性化させるのはどうするのでしょうか.かつての集中方式は当然働きません.集中方式はどこかへの集中をモデルとしているから,分散した地方に適用しても無理があります.田舎が東京のまねをしても,東京にはなれません.分散化の方法はないのかと考えてみると,自然エネルギーがそうではありませんか.都会は集中をすればいい.自然エネルギーは地方の経済発展に使おう.という適材適所の考えがでてきます.分散しなくてはいけない自然エネルギーは,集中型ではないという不利さを持つという考えから,分散型を利点として使うという考えの転換があります.集中させられないから,適切に発展させることで分散した地方の雇用へとも結びつけるという考えがでてきました.ドイツは連邦制をとっていて,地方の分権が強いという背景もあります.この考えで政府と産業界が話しあってエネルギーの転換がすすめられました.エネルギーの転換によって産業界にもお金が行くような方策が考えられました.だから2011年にメルケル氏が突然脱原発を決めたわけではないのです.脱原発は既に10年以上行なわれた計画で,今回の早くなった計画でも2022年までかかるものです.そういう意味ではドイツの決断は 2011 年に一朝一夕でできたものという考えは誤解と言えるでしょう.

ドイツでは脱原発とは言いません.「エネルギーの転換(Energiewende)」です.なぜなら,脱原発は目的ではないからです.ドイツでは脱原発というのは単なる副作用で起きたことです.「安全とか倫理だけで原発を止めたわけではない」のです.国の独立を守り,国の安全を守り,産業界を潤し,経済を成長させること.そこででてきた戦略が「エネルギーの転換」です.たまたまその戦略では石油とウランへの依存が邪魔でした.脱原発はおまけだったのです.

石油やウランを生産する国の問題で自分の国民の生活がおびやかされないようにすること.地方の経済を含めて経済を活性化させる成長戦略,そしてこれ以上の原発の安全のコストや核廃棄物の負担のコストという経済の足をひっぱる部分から抜けでること.長期的には枯渇してしまうものへの依存をなくす.それがエネルギー転換の一面です.ですから脱原発だけではありません.石油と石炭への依存からの脱却もその中に含まれます.その時に電気を使わないようにして,国民の生活の質を落とすという選択はありませんでした.最初の2011年の脱原発を決めたという委員会の名前に戻りましょう.「エネルギー安定供給のための倫理委員会」です.これを脱原発が主だとみてしまうと意味が通りませんが,将来的な安全保障と経済成長の一環とみれば妥当な委員会名ではないでしょうか.

ここで紹介した記事は紆余曲折がありながら,ドイツではどうして脱原発ができたかのということが解説されています.私の理解では,ドイツで起こったのは「脱原発ではなく,エネルギー転換だった」ということ.そして結局は「脱原発は国としての独立性を強め,安全保障を高め,国富を増やす方法」として行なわれたということです.これが良いのかどうかの議論はまた別の機会にゆずりますが,少なくとも福島の教訓を学んだとか,倫理であったというのはほんの一面でしかないことはうかがえます.

私は,地産地消になる自然エネルギーは特定のエネルギーの輸出国や,国際的なマネーの変動の影響を受けにくいという意味で成長戦略と安全保障に有利という点を考えたことがありませんでした.ドイツでは,安全を求める市民による自然エネルギーへの投資額が大きいという市民の力も1つの柱で無視できないものですが,もしかしたらそれだけでは脱原発にはならなかったかもしれません.これに加え,国家の成長戦略と安全保障を追求した結果,エネルギー転換を行なったことを考慮した方が良いと思います.機会があったらぜひ読まれることをおすすめします.

  1. Wikipedia de, エネルギー安定供給のための倫理委員会, https://de.wikipedia.org/wiki/Ethikkommission_f%C3%BCr_eine_sichere_Energieversorgung
  2. Amory Lovins, A 40-year plan for energy, TEDSalon NY2012, http://www.ted.com/talks/amory_lovins_a_50_year_plan_for_energy