福島の原発事故から5年、チェルノブイリの事故から30年の節目の今年、ベルリンで3月11日から長期にわたって開催中の「核エネルギーと民主主義」をテーマにしたProtestival2016。このテーマに沿って様々な職業人の立場からいただいたインタビューを連載しています。第七回目はシンガーソングライターで、制服向上委員会の名誉会長でもある橋本美香さんにお話を伺いました。
Monthly Archives: April 2016
Protestival in Leipzig
Protestival in Leipzig
ベルリンから南東へ200km離れた所にライプツィヒはある。バッハ、ゲーテ、メンデルスゾーンゆかりのある有名人をあげれば数知れず、現代でもライプツィヒは第二のベルリンと言われる文化的に自由な雰囲気を持っている。
チェルノブイリから30年、フクシマの事故から5年ということでこの問題についてより多くの人に再度考えて欲しい、そんな思いからベルリンだけでなくライプツィヒでも上映会を開くことになった。今回はこの街で行なわれた小さな上映会についての報告である。
4月1日、幸か不幸か最高の天気に恵まれ幕を開けた Protesival in Leipzig。
一日目のプログラムはライブペインティング、グリンピースエネルギーからヨーロッパの原子力発電所の具体的な現状の紹介、そして二本の映画にディスカッション。
会場準備と共に始まったライブペインティング。ライプツィヒ在住の三人のアーテイストによるコラボレーション作品。三人で一つの絵をゼロから成っていく工程は芸術家の感性と遊び心を見せていた。芸術に言葉は要らない。だからこそ、芸術は世界を繋ぐ一つの手だてになる。
まずはグリーンピースエネルギーからの話から始まる。
ドイツでは2020年まで原子力を止めることは決まっているが、放射線を出し続ける放射能廃棄物の最終処理場の問題は未だに片付いていない。ドイツのすぐ横には原発大国フランスを始めとし、近隣諸国のイギリス、チェコ、スロバキア、ポーランドを始め新しい原子力発電所の建設予定もある。再生可能エネルギーへ転換を図りEUを牽引していくドイツ国民はこの状況に対してどう取り組むべきなのか、またそれに伴う経費についても事細かに話しがあった。この問題は一つの国家の問題として捉えるべきではない、EUという連合体、つまるところ世界的な視野を持つことによって見え方も対応も変わっていくことのだ。アクチュアルな問題である避難民の問題含め様々な問題を抱えるドイツだが、原発についてはそれぞれが意識的に続けていかねばならない。彼はそのことを強調していた。(放射能廃棄物についての問題はこちらをご覧下さい→http://midori1kwh.de/2012/03/11/1512)
上映開始予定16時になっても、空からは春の暖かい日が差し込み、映画を見に来てくれた人も外で太陽の光を浴びたいから上映時間を後にしてくれないかと言われる次第。私自身も公園でごろごろしたいなと思ってしまったが、それは諦め予定通り上映を開始した。
一本目の映画〈カリーナの林檎〉
一本目の映画はある物語〈カリーナの林檎〉。チェルノブイリ近くの街に暮らすどこにでもいる少女についての話で最終的に内部被爆をし病気になる。もし自分の子どもや未来の子どもがそんな目にあうことったらと思うだけで原発にはうなずけない。笑顔でいれば放射能は無くなる。そう言っていた政治家にはこうなることは想像できないのであろうか。翻って今の日本で行なわれている避難区域解除に対して疑問が生まれてくるのも当然ではなかろうか。ただちに影響はありませんでは困る。何かが起きてからでは遅いことだってあるのだ。
一本目、二本目の映画の間には30分程の休憩があり、愛のこもったおにぎり三種(トマトライス、ツナマヨ、タケノコ炊き込みご飯)に卵焼きに白菜の浅漬けもあった。味も見た目も大好評であった。
二本目の映画〈首相官邸の前で〉
空も段々と薄暗くなりはじめ、二本目の映画〈首相官邸の前で〉の上映時間。2012年におきた首相官邸前での反原発デモのドキュメンタリー映画。『私はこの映画で楽観主義を広めたいのです。』ベルリンでそう語った監督のメッセージが表した言葉の通り、私はこの映画を見て勇気と希望を頂いた。デモを始め社会活動をほとんど知らずに育った私たちの世代。私たちにも上の世代からバトンが回ってくるし社会に対して責任はある。だからこそそれぞれが学び続け、社会に対して意見を持てるほうがいい、それが民主主義の前提でもあるのだ。
上映後にはこの映画監督である小熊英二氏とのSkypeでのディスカッションが実現した。最後まで残ってくれたのは10人(メンバーも含めて)。人数が少ないことがプラスの効果をもたらし、リラックスした雰囲気でディスカッション(というか座談会。。。)は進行した。現在の日本の市民活動の状況についての話、そして今回の小熊氏の2ヶ月間の映画上映とそれに伴う大学巡業を通してフランスとドイツの学生達の比較も含めたざっくばらんな質問や感想も聞くことができた。
『20万もの人が首相官邸の前にいながらなぜ報道が少なかったのか、独立しているジャーナリストは何をしていたのか』という会場からの質問に対し、氏の回答としては日本には過去30年近くそういう事が起こっていなかったためそういったことを報道することに慣れていなかったのではないかと言っていた。それが理由だとしても、ジャーナリズムやジャーナリストを育ててこなかった日本の教育の問題点にも疑問が浮かぶ。
『ドイツから学ぶものはあるか』という質問に対しては彼は“地域、共同体の繋がりの強さや関わり方“を挙げられた。
その回答には私も同様のことを思っている。ライプツィヒでもベルリンでもそのような横の繋がりをよく感じる。縦の関係は時に対等であるべき討論を難しくする。上の人が常に正しいなんてことは無いからこそ、何かを決めるときには縦の関係をできるだけ排除して考えるべきだし、上の人も下の人の意見に耳を傾けるべきである。そしてもちろん下の人も上の人の意見には批判的に考えるべきである。そういう上限関係を抜きにしてこそ、地域や市民の運動はより優れたものとなっていくのではないかと思う。
※この企画当初からこの映画監督の小熊氏とはライプツィヒにきてもらうため何度かメールをさせて頂いた。その柔らかい対応と、実際に見るエネルギッシュな姿から学ぶことはたくさんあった。翌日に日本に帰るという強行スケジュールにも関わらずSkypeで対応してくれたこと、この場を借りて感謝の気持ちと敬意を述べたい。
二日目、プログラムはご飯の会に映画に音楽。
当日は日本の家で毎週土曜日に開かれる『ご飯の会』があった。『ご飯の会』は誰もがお客さんであるが手伝いたい人は下ごしらえから参加できるので言い換えれば手伝える炊き出しである。この会はライプツィヒではけっこう知られていて多くのお客さんを集める。ご飯に対して払う料金は自分で決めれるのでお客さんはお金のない学生、ホームレス、アナーキスト、ヒッピーのたまり場にもなっている。(もちろんジャンルに入らない人も多い) 今回は日本の家に来る常連さんが中心の国際色豊かなバンドによるジャムセッションあった。そのためもあって会場は大入り状態で準備した食べ物はみんなの胃の中に消えていった。(日本の家の活動についてはHPを見て欲しい→http://djh-leipzig.de/ja)
この日唯一の上映作品、〈太陽が落ちた日〉。原爆と原発、原爆の記憶や経験を持っている人が今の社会をどう見るのか。映画が終わったときには会場からは大きな拍手に包まれた。いいチョイスをした、日本について知らなかったし勉強にもなった。そんな言葉を数多く聞けた。これは是非多くの人に見てもらいたい。
映画のもたらした静かな会場雰囲気の中、音楽が始まった。目で見る芸術とはまた違う表現方法である。だからこそ音楽の感想を事細かに書くことはできないが、会場の雰囲気にあったいい時間であった。
アンコールが響く中、Protestival in Leipzigは幕を閉じた。
次へ向けて
イベントのテーマは反原発で、この問題に対して『反対!』と叫ぶ事は大事だ。しかしそれよりも、未来に対して楽しい明るいイメージを持つことは重要でこういう場を持って、自分の考えを持つべきである。その意味では今回の活動が文化活動と結びついたことは何より嬉しい。なぜなら文化こそが、国や言葉を超えるものになり得るからである。グリンピースエネルギーが述べていたよう、この問題はどんどん複雑化し規模が大きくなっているのだ。それはもはや一つの国のテーマにすべきものではない。一つの社会で起きたこと、起きていることを通しそれぞれがこのテーマについて何か話をし記憶に留めてくれていれば幸いである。
私が今回思ったことは社会活動の難しさはもちろん重要性と素晴らしさである。(Wikipediaによると社会活動の定義は、社会の為に貢献するもの) こういう一つの活動が繋がりを生む。たくさんの感謝や嬉しい気持ちが自分を動かしまた誰かを動かす。それが街や人を活動させることの一歩であろう。
このことも含め私は多くのことを学んだ。だからこそこれからも小さくても何か繋がりを生める様な活動を続けていきたいと思う。
今回ペインティングしてくれたアーティストのFacebookファンページ→ https://www.facebook.com/andecian?pnref=story
そして日本の家のご飯の会の特別ムービー!
終
上映作品の予告編集
・カリーナの林檎→https://www.youtube.com/watch?v=KypJEW7YBtg
ルポライター山秋真さんに聞く「核エネルギーと民主主義」
福島の原発事故から5年、チェルノブイリの事故から30年の節目の今年、ベルリンで3月11日から長期にわたって開催中の「核エネルギーと民主主義」をテーマにしたProtestival2016。このテーマに沿って様々な職業人の立場からいただいたインタビューを連載しています。第六回目は、脱原発の希望がたくさん詰まった「原発をつくらせない人びと―祝島から未来へ」の著者である山秋真さんにお話を伺いました。