廃炉の話をしようや 2: 廃炉の期間,費用,廃棄物

第1回目は廃炉とは何かの話をしました.原子炉は巨大な湯沸し器ですが,普通の湯沸し器と違う所は,放射性物質で汚染されているので簡単に捨てられないことです.寿命が来たり壊れた原子炉を処理することが廃炉です.第2回目はこの廃炉にかかる期間と費用,その廃棄物の処理をグライフスバルドの例と共に見ていきたいと思います.

4. 廃炉の期間と費用

現状では,廃炉の期間は解体撤去と安全貯蔵方法のどちらも最低30年は必要と考えられています.

廃炉の費用は原子炉がそれぞれカスタマイズされていることから原子炉ごとに異なり,不明というのが正直なところです.グライフスヴァルト原発の廃炉では5000億円が試算とされています.

5. 廃炉の資金

資金は通常,燃料の最終処分を含む後処理の資金の一部として電力会社が積立てることになっています.それは電気料金の一部となります.ただし日本では,核燃料サイクルを確立して使用済み燃料を再処理する計画が成功することになっていますので,最後に残る使用済み燃料の最終処分の費用は考慮されていません.(記録者補足: 核燃料サイクル確立のために2011年まで45年間10兆円以上の予算を税金と電気料金から投入していますが,まだ成功のめどは立っていないという新聞記事があります[Tokyo Shinbun 2012年1月5日])

ドイツの場合300億ユーロから360億ユーロを積立てることになっていますが,これには国際基準があるわけではなく,国によっては積立てていない国もあります.ドイツでは一時的には国で基金を作るという動きがありましたが,当時は電力業界の積立金を国に移管することに電力業界が反対し,立ち消えになりました.しかし.現在は企業の積立ではとても賄えないだろうという予想になってきました.そこで電力会社は,廃炉の資金が不足しても責任を負わず,後は国に任せようと,基金の設立に賛成の方向に方針を転換しているようです.そうなると,原子力発電を利用していない後の世代が廃炉の負担を負わなければならなくなります.この問題がどういう方向で解決されるのかはまだわかりません.

6. 廃炉の廃棄物

廃炉によって排出される廃棄物には異なる汚染状況により高・中・低レベルの廃棄物と,それ以外があります.

  1. 高レベル放射性廃棄物: 使用済み燃料など
  2. 低・中レベル放射性廃棄物: 施設で利用され放射性廃棄物として取り扱うもの
  3. その他: 通常の産業廃棄物として扱われれるもの

放射性廃棄物として取り扱う基準は 10 m Sv/y (ミリシーベルト/年)超の汚染かどうかで判断されます.この基準値で本当に安全かどうかの保証はありませんが,10 m Sv/y 以下であれば,市場に出してリサイクルすることもできます.また,放射線核種によって人体への毒性などが異なるので,核種毎に基準値が規定されています.

7. 廃棄物の除染

除染とは,放射性物質を取り除いて放射性物質を安全に保管するために移動させるということです.除染によって廃棄物表面の放射性物質を取り除き, 汚染度を引き下げます.それによって,放射性廃棄物として取り扱うものの量を減らすことができます.この作業も廃炉では重要です.

1つ注意することは除染とは放射性物質を無害化することではありません.汚染されたもの(配管など)は表面が汚染されていることが多いため表面の汚染部分を高圧水や,鉄の粉を吹き付けて洗浄,あるいは化学的に削りとります.基本的に私達は汚染を浄化するための安価で実用的な技術を現時点では持っていません.つまり放射性物質はなくすことができないので,それを集め,濃縮します.それを長期に渡って保存して放射性物質の放射能が低くなるのを待ちます.

こうして汚染部分を削りとった配管などは放射線量が低くなります.こうすることで中低レベルの放射線汚染物質の量を減らします.(高レベルの廃棄物は使用済み燃料,つまり放射性物質そのものなので表面を削るというような除染は意味がありません.) 除染によって廃炉後の放射性廃棄物は原発全体の5%前後に削減されます.

この5%前後の廃棄物は,最終処理場へと運ばれます.この先の話は最終処分をどうするかという話に続きますが,それは今回の勉強会の範囲を越えます.

8. 廃炉の例: グライフスヴァルト原発の廃炉

世界最大の廃炉作業をしている原発が,ドイツ北東部にあるグライフスヴァルト原発です.5 基の原子炉で廃炉作業が行われています。

今回例となったグライフスヴァルト原発の廃炉では 1995 年に廃炉の許可がおり,作業が開始されました.原子力発電所には最終停止時に約1万人の従業員(うち半分は建設中だった原発の建設作業員)がいたそうです.組織の規模ですが,この時点では東ドイツの会社組織ということもあり,西側の組織と比較すると従業員数がかなり多くなるという特殊事情もあり,従業員数の推移を単純に西側の会社組織と比較することはできません.たとえば,西側の組織に改変するだけでも従業員数が激減することが当時はありました.一方参考までにですが,原発の停止後には,原発で働いていた人達は,中間貯蔵施設の建設工事などに再就職した人や,早期定年退職制度での退職,そして現在の廃炉作業にかかわる会社で働くという様々な道を歩んだということです.廃炉の作業にかかわる会社の規模は現在1500人ほどです.また原発跡地には誘致された新しいエネルギー関係の工場などが後にできて,現在はその新しい産業で働く人達もいます.

廃炉の作業状況は 2013 年の時点で 70% から 80% 終了とされていました.ただし,1号機の廃炉に即時解体撤去法をとったところ,コストが予想を大幅に上まわってしまったので,他の原子炉では,即時に解体せず,汚染度の高い圧力容器と蒸気発生器を撤去した後中間貯蔵施設に保管して,汚染度が低くなったら解体することにしています.ここでは50年間貯蔵することにしています.図2にグライフスヴァルト原発の建設,稼動と廃炉の時間を示します.50年の安全貯蔵をいつ決めたのかの情報がないので(それは1号機の圧力容器解体後ということでしたが,いつかは不明) 一番少なく見積っても2045年までは完了しないことは確かですが,その後どの位かかるかなどは現時点では不明です.

廃炉の全費用はまだ不明ですが,現在の試算では5000億円です.

グライフスバルド原子炉の建設,稼動,廃炉.一部のデータソースは[Greifswald]より.横軸は西暦年を示す

図2: グライフスバルド原子炉の建設,稼動,廃炉.一部のデータソースは[Greifswald]より.横軸は西暦年を示す

8.1 廃炉における除染作業

説明を受けてわかったことは,廃炉における除染作業とは,原発で汚染されていると見られるものの全てを1m x 1m x 0.7 m程度の箱に入るように切断し,そのうちのできるだけ多くが10m Sv/年の基準値以下となるように汚染度を下げる作業です.(この箱のはっきりした大きさはわかりませんが,写真で拝見した所,人との比較でこの程度の大きさのようでした.) 配管,ポンプ,容器,壁,全てをこま切れにして除染し,汚染を測定し,そして不合格ならまた除染作業をする.その作業は汚染が広がらないようにそれぞれが特定の小部屋の中で防護服に守られながらの手作業です.それを全ての箱が合格するまで繰り返す作業です.20年たった今の進捗状況は70から80%と推測されています.汚染度の高いものは,50年間中間貯蔵場に保管した後に切断され,さらに除染されます。

電力産業は廃炉が決定されたら終わりではありません.廃炉によってある程度雇用は維持されます.その土地を再利用するために,廃炉のノウハウが蓄積され,それがさらに産業にまで育っていく例がグライフスヴァルトに見られます.

グライフスヴァルト原発の跡地では,すでに一部が自然エネルギー関係の工場となり,洋上風力発電設備のコンポーネントが生産されています.生産された風力発電設備のコンポーネントは,原発の排水口を改造して造った港から洋上に運ばれます.原子力発電所に附属する変電所や送電線は,洋上風力発電で発電された電力や新たに建設される予定のガス発電所で発電される電力のために再利用される予定です.

原子力発電所は廃炉のステージに入っても数十年を越える雇用が必要であり,グライフスバルド市は廃炉のノウハウを蓄積し,産業化,それを輸出することで発展するという方針のようです.

8.2 第2回目のまとめ

20年かけてまだ終わらず,50年たってから作業を開始しようという部分もあるという廃炉の作業の期間は私には驚きでした.その費用もまだよくわかっていないことや,なにより誰が負担するのかはっきりしないことはどうも気分が晴れません.あまりに時間がかかるので,電気を使っていた人ではなく.電気を使ってさえいない人達が負担しなくてはいけないというのは,その国の将来の経済に負担となることでしょう.親の身代を潰すのは3代目という言葉も聞きますが,これから生まれてくる子の身代を潰すのは親としてどうなのでしょうか.

一方,ドイツのグライフスバルドの例は廃炉を産業化し,雇用を生み,未来へつなごうという試みとしても見ることができます.そして今後原子炉の廃炉の時代がやってくることをみこして,他の国へ技術を輸出しようとしている人達がいるというのはなんともすごいなと思いました.寿命が来た原子炉をひきとりたくない人は世界に多数いる.だからそれを処分する産業は金になる.したたかなものだな,と思いました.廃炉なんてめんどうなこと,あんまり考えたくないなという私がいる一方,グライフスバルドの話は私も見習う所がありそうだなと思いました.

さて,廃炉についてはざっとみてきましたが,では私は何かできるのか,たとえできないとしてもどうこの現実につきあうのか,ちょっと考えてみたいと思います.次回は廃炉の話の最終回になります.

参考資料

  1. [Tokyo Shinbun 2012年1月5日] 東京新聞, 45年で10兆円投入.核燃サイクル事業めどなく,2012年1月5日の記事,http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2012010502100003.html
  2. [Greifswald] Wikipedia En, Greifswald Nuclear Power Plant, https://en.wikipedia.org/wiki/Greifswald_Nuclear_Power_Plant

第2回目では廃炉の期間(最低30年)や費用(一般に不明,グライフスバルド原子力発電所の廃炉費用の試算は5000億円),汚染された廃棄物の除染の話をしました.廃炉とはプラントを 1m x 1m x 0.7 m の大量の箱につめ,除染作業をし,基準を満たさなければ,再び除染作業をしていくという作業でした.気の遠くなる作業でしたが,グライフスバルドはそれを産業として雇用を生み出し,技術を世界に輸出しようというしたたかさも見ました.

今回は勉強会を通して市民としてエネルギー政策に向きあうにはどうするのかということについて少し考えていきたいと思います.

9.今後のエネルギー開発にどう向きあっていくか

ふくもとさんから以上のような廃炉についてのお話のあった後,エネルギー開発について,市民がどう向きあっていくのかのお話がありました.まず,1992年のリオ宣言[Rio Declaration]の話をされました.これは持続可能な発展をどうするかについての国際宣言です.それに照らして,現在,コストが不明なものを次の世代に負担させて良いのか,それも実際には電気を使っていない私達の子達や孫達にその負担させる現状はどうなのか.ふくもとさんは,できるだけ正確な基本知識を身につけ,自分で考えて判断できるようにする,さらに自分の生活の中で自分に何ができるのかを考え,それを実行してほしいとコメントされていました。

10. 持続可能なエネルギー開発における廃炉の位置

ここからは勉強会を終えての私の考えが多々入りますので,それに興味のない方はここまでで読むのをお止めになってもかまいません.

勉強会ではふくもとさんがコメントとして 1992年のリオ宣言の話をされました.人類,それは個々の国の発展とも結びついていますが,たとえばある時代の人間が全ての資源を使い果たして子孫の生活を困窮させることはあってはならないという考えがあり,私も賛成します.もし持続可能な発展を考慮しなければ,その人々の子孫は負担を強いられ,最悪の場合には滅びへの道を歩むことになります.私はそのようなことを悲しく思います.現在の一時的な繁栄だけではなく,未来の繁栄,子孫の繁栄も必要と思います.

世界中で各国が子孫の繁栄を考えるのであれば,持続可能なエネルギーの開発をすすめなくてはならない.その方針が,1992年に国連が主催で出されたリオ宣言です [Rio Declaration]. そこには27の原則がありますが,特に原則1と3を以下に抜粋します.(日本語翻訳は私のものです.)

  • Principle 1. Human beings are at the centre of concern for sustainable development. They are entitled to a healthy and productive life in harmony with nature.
    (原則 1. 人間が持続可能な開発の中心として考えられるものである.人間は自然と調和して健康で生産的な生活を送る権利を持つ.)
  • Principle 3. The right to development must be fulfilled so as to equitably meet developmental and environmental needs of present and future generations.
    (原則 3. 開発の権利は現在と未来の世代の開発と環境の要求の両方を等しく満たすものでなくてはならない.)

廃炉という作業は残念ながらその作業を行なう世代には負担となるものです.現在の状況では,電気を使っていない世代が廃炉作業をしなくてはいけません.つまり未来から借金をすることで現在を繁栄させ,子達や孫達,その子孫にその負担を与えてしまう.子達に危険と借金を負担させることで,現在の料金を安くする.我々の世代はそのようにして繁栄を享受していいのか.それがこの国,世界の発展に結びつくのか.それを今からでも考えなくてはいけないと廃炉について学んで私は思いました.

また,情報は確かに日本語ではあまり入手できない部分もありますが,他の国の廃炉の状況などは英語などで公開されているものもあります.そういう部分からでも少しづつ知ることは今の時代にはある程度できます.福島という災害は,国土の一部を長期に渡って失うというものでした.それは住む場所がなくなる可能性や,住民,特に子ども達の健康という問題でもあり,私は少なくともそれを知り,言われたことを鵜呑みにするのではなく,自分なりに理解したいと思います.それが今後の発展する未来への一歩だと思います.

今後,福島の廃炉もそうですが,寿命の来た原子炉の廃炉費用は誰が負担するのか.そして廃炉で出てくる使用済み燃料の最終処分の方法はどうするのか,その費用はどうするのか.廃炉が高いのなら原発を止めておけばいいのでは,と考えたのですが,そうはいかないようです.原発は稼動しなくても維持費がかかります.日本全体で 2012年の維持費は年1.2兆円とされており電気料金等に上乗せされています[日本経済新聞 電子版 2013-3-29].福島は未来への借金を返す請求書がついにやってきたことかもしれません.できるだけ負債を返済して子孫達に負担をかけず,未来の発展を考える方向を考えていきたいと私は思います.省エネに気をかけることも1つできることと思います.また,今後自由化でどの電気会社を選ぶかも1つの意思です.そして選挙に行くこともまた1つの意思でしょう.他の国の例を調べて見ることもまた1つです.権益者の利益は結局消費者が払った電気代から来ています.それが本当にどう使われているのか知ろうとすることも1つでしょう.ここに書いたことは小さなことばかりです.そんなことをしても何も変わらないかもしれません.しかし,日常続けることが結局できることではないかと私は思います.一日一日は小さく,まったく変わっていないように見えても,知らないうちにどこかにたどりつくことができることもあります.まあ,そうでないことも多いでしょうが,無理とあきらめてしまえば改善は望めないことは確かです.未来の選択肢を残しておきたいというのが私の思う所です.

これもまた小さなことですが,私はこういう情報の発信も市民として1つのできることだと思います.英語や他の言語ができる人は海外の廃炉の情報などを翻訳して公開することもまた1つのできることでしょう.これを読まれた方,ここにある情報もけして鵜呑みにはせず,2次資料をつきあわせてぜひ御自分で納得して下さい.私は考えることを誰かに任せて,想定外の一言で片付けられるのだけは御免です.考えることもまた1つだと思います.

この勉強会のまとめがどこかで誰かのお役にたてましたら幸いに思います.

参考資料

  1. [Rio Declaration], Rio Declaration on Environment and Development, http://www.unep.org/Documents.Multilingual/Default.asp?DocumentID=78&ArticleID=1163, 1992
  2. 日本経済新聞 電子版 原発維持コスト、年1.2兆円 経産省が試算  2013/3/29, http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2803Y_Y3A320C1EE8000/

廃炉の話をしようや 1: なぜ廃炉の話なの? 廃炉って何?

今回から数回に渡って 2014-09-13 に行なわれた廃炉についての SNB での勉強会の様子のメモをこの Blog にて報告いたします.第1回目はどうしてこの勉強会が行なわれたかについてです.

1. なぜ廃炉の話なのでしょうか

福島の事故の後,破壊された原子炉を廃炉にする,あるいは寿命がきてしまった原子炉を廃炉にするという話を聞きます.物が使えなくなった時にどうするのかという話ですが,原子炉の場合はどうなのでしょうか.考えてみるとゴミに出すとかリサイクルするとかいう話とはちょっと違うようです.原子炉にも必ず寿命が来ますので,原子炉が存在する以上廃炉は必ずやってきます.そこで素朴に廃炉とはどんなものかを知りたいなと考えた SNB (Sayonara Nukes Berlin) の何人かが,ジャーナリストとしてこの問題を長い間追いかけているふくもとさんにお願いしてお話を伺いました.この話がでた時,ふくもとさんは「廃炉のことを知ると原発がどういうものがわかってくる」とおっしゃられ,快く講師を引き受けて下さいました.図 1 がその様子の写真です.

廃炉の話をしようや:勉強会の様子
Fig. 1.廃炉の話をしようや:勉強会の様子

このメモはその勉強会での記録を記録者の私が理解したようにまとめたものです.

1.1 講師: ふくもとまさお氏

現在フリージャーナリストとして活躍なさっているふくもとさんは,1980年代には東ドイツに在住しておられました.その時のチェルノブイリ原発事故をきっかけにそれ以降,原発問題に関心を持たれたそうです.ふくもとさんは原発問題に関しての著作[Fukumoto 1] があり,ドキュメンタリーの制作[Fukumoto 2]にもかかわられています.

1.2 廃炉の題材

今回は.世界でも最大規模の廃炉がドイツのグライフスヴァルトで行なわれているということで,これを例とした廃炉の話をふくもとさんにおうかがいしました.

2. 廃炉とは何ですか

2.1 原子炉と廃炉

原子炉とは基本的には湯沸し器であり,その湯沸し器で作った蒸気でタービンを回して巨大な自転車のダイナモのような発電機をまわして電気を作ります.お湯をわかす時に核分裂のエネルギーを利用するので原子力発電と言います.もし石油や石炭で蒸気を作れば火力発電になります.この湯沸し器が原子炉です.この原子炉が危険な放射性物質で汚染されるため,これを安全に処理する必要があります.その作業をここでは廃炉作業と呼びます.

2.2 廃炉のはじまりと終わり

廃炉とは原子炉のあった原子力発電所の土地を整地して緑化するまでの作業のことです.しかし,廃炉は1つのステップでしかなく,廃炉が終われば全て完了ではありませんでした.廃炉の後には最終的な廃棄物が残ります.その話は廃炉の後の話で,ここでは述べません.それはまた他の勉強会ということになるかもしれません.

廃炉は炉のあった土地の緑化作業終了で終わります,では廃炉はいつからはじまるのでしょうか?

廃炉は原子炉の設計段階からはじまります.放射性物質に汚染された炉を安全に解体できるよう,炉を設計しておく必要があります.たとえば,炉を格納容器や建物から安全に取り出すことができるように設計しておかないと後でその処理が難しくなります.

ドイツでは,設計段階で圧力容器をどう取り出すかなど廃炉の基本的なコンセプトが考えられていないと,原発の設計許可はおりません.ただし日本ではこの条項は必須ではないようです.(記録者注: 設計図が散逸したり古くて読めない,解体は考慮されていなかったという問題が指摘されている番組があります[NHKスペシャル2009.10.11])

3. 廃炉の方法

廃炉の方法には大きく分けると以下の2つがあります.

  • 解体撤去(即時解体撤去)
  • 安全貯蔵(これを完全密封と遮蔽管理に分けることがあります)

それぞれについて見ていきましょう.

3.1 (即時)解体撤去

原子炉の運転を止めてからすぐに原子炉の解体をはじめる方法です.この方法の利点と欠点は:

  • 利点: 現場を知る作業員がいるために作業が有利
  • 欠点: 汚染度が高い

原子炉というものは規格化されて大量生産されているものではなく,プラント毎にカスタマイズされています.そのために現場の状況を知る作業員がいることは解体の作業をすすめる時に有利になります.

原子炉の運転を停止した直後は汚染度も高いため,作業そのものが難航します.これにはロボットを利用するなどの工夫が必要です.

3.2 安全貯蔵

安全貯蔵法は,放射線汚染が下がるまである期間(30年〜)待つ方法です.以下がこの方法の利点と欠点です.

  • 利点: 作業時の汚染度が相対的に低い
  • 欠点: 現場の状況を知っている作業員がいない.

この方法は即時解体撤去法と比べれば汚染度が低く作業も容易になります.ただし完全に汚染が除けるわけではないので相対的に容易ということです.

一方で通常 30 年,あるいは50年以上の貯蔵期間を経るために,現場の状況を知る作業員は期待できません.

3.3 第1回目のまとめ

形ある物はいつか寿命がきます.原子炉も然り.でも,どうするのか聞いたことがありません.しかし放射性物質のかたまりである原子炉の燃料や,それを保持していた容器を普通に捨てるわけにはいかないことはさすがに私にも想像がつきます.今回は廃炉とは何であり,どのように行なわれるかの話をしました.私が関心のあるのは,「廃炉ってそもそもできるのか,どうするのか」「いったいいくらかかり,誰が負担するのか」「廃棄物はどうするのか」などです.今回は最初の疑問,廃炉はできるのか,どうするのかに答えたものでした.廃炉は不可能ではないらしいが様々な困難さがあることはわかりました.

以前の能天気な私ならば「まあ,誰か考えているさ」位に考えていたかもしれません.しかし私が個人的に福島で思い知らされたのは「誰も考えていない」あるいは「私は責任をとりません」という意味の「想定外」という言葉の連呼でした.私は「想定外で片づけられるのは御免だ.」と個人的に思いました.福島は「誰かが考えているさ,なんとかなるさ」と思っていた能天気な私に「目を覚ませ」という強烈な一撃を浴びせました.しかし,目を覚ましていったいどうするのか,このまま真の破局までのつかの間でも,ぼんやり寝ていた方が幸せではないか.どうしてこんな面倒なことになったのだ,とまだまだ能天気な自分がでてきます.その一方,国土の一部とて失うエネルギー源の意味とは,子どもを,命を危険にさらして冷房を使い,インターネットを使う意味とは,を考えてしまいます.

しかし,ではいったい私に何ができるのか? たいしたことはできないでしょう.でも能天気な私はまたこうも思いました.「私に何かが変えられるとは思わないけれども,別に何があるのか調べてちょっと考えても悪くはない.何かできればもうけもの」そこで,まずは何が進行しているのかの一部でも知りたいと思って勉強会に参加しました.

第2回では私の他の疑問,廃炉にかかる期間と費用,そして廃炉の廃棄物の話を予定しています.

参考資料

  1. [Fukumoto 1] ふくもとまさお,ドイツ・低線量被曝から28年 — チェルノブイリはおわっていない, 言叢社,2014, ISBN-13: 978-4862090478
  2. [Fukumoto 2] 日本テレビ, NNNドキュメント’13, 活断層と原発、そして廃炉, http://www.ntv.co.jp/document/news41_2.html,2013
  3. [NHKスペシャル2009.10.11] NHK スペシャル 原発解体〜世界の現場は警告する〜 http://www.nhk.or.jp/special/detail/2009/1011/

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Fig1. Let’s talk about nuclear decommissioning: meeting snapshot

 This blog article is a summary of my understanding of the discussion.

1.1.1 Lecturer: Masao Fukumoto

Fukumoto is a free journalist. He lived in East Germany (Deutsche Demokratische Republik) in the mid 80s. There was the Chernobyl nuclear incident. For him, that was an on-going disaster experience and that was the clue to follow the nuclear energy problems. He is the author of a book [Fukumoto 1] dealing with the radioactive contamination problem of Chernobyl. He is also one of the creators of a TV documentary about nuclear decommissioning [Fukumoto 2].

1.1.2 Example of nuclear decommissioning

In the discussion meeting, Fukumoto suggested to talk about Greifswald nuclear power plant as an example of a nuclear decommissioning since it is currently the largest nuclear decommissioning project in the world.

1.2 What is nuclear decommissioning?

1.2.1 Nuclear reactor and nuclear decommissioning

A nuclear reactor is fundamentally the same as a huge kettle. We generate high pressure steam by the huge kettle and drive a steam turbine to generate electricity. Since we used nuclear fuel to boil the water in the kettle, we call the resulting energy nuclear energy. This huge kettle is called a nuclear reactor. Since this nuclear reactor uses highly radioactive dangerous substances, a nuclear reactor should be processed and appropriate safety measures have to be taken before trashing it. This process is called nuclear decommissioning.

1.2.2 The start and the end of a nuclear decommissioning

A nuclear decommissioning is a process to restore the site’s “greenfield” status. Radioactivity surveillance for the area should not be required after the decommissioning. However, a nuclear decommissioning is only of the cleanup. Nuclear decommissioning produces radioactive waste and processing radioactive waste was beyond the scope of the meeting. We may have another discussion meeting for the topic.

When the area is back to a greenfield status, then that is the end of nuclear decommissioning. So, when does a nuclear decommissioning start?

The nuclear decommissioning started in the design phase of the plant and the reactor. To make the decommissioning process safe, we need to design a reactor that can be safely decomposed. For instance, we need to build a reactor that can be carried by a crane (or by some kind of machine) to remove it from the building. Otherwise the process would become difficult.

In Germany today, the government cannot give permission to build a reactor if the designer of the reactor didn’t consider the concept of nuclear decommissioning (East Germany (Deutsche Demokratische Republik) might not have had this regulation.) However, including the decommissioning concept in the reactor design seems not necessary to build a reactor in Japan (Recorder’s footnote: [NHK special document 2009.10.11] shows that a Japanese company lost some of the design plan of their reactor, and the remaining design plan is too old to read it. The regulations didn’t require to keep the plans.)

1.3 The methods of nuclear decommissioning

There are mainly two methods of nuclear decommissioning:

  1. Immediate dismantling
  2. Safe enclosure (Sometimes this method is further divided into Safe enclosure and Entombment.)

Let’s see them one by one.

 1.3.1 Immediate dismantling method

This method starts decomposing the reactor directory after the power plant shuts down. The pros and cons of this method are:

  • Pros: There still are the workers who know the plant details. This is an advantage for the decomposing operation.
  • Cons: The radioactive contamination level is high

Nuclear reactors are not standardized. Each plant is highly customized. Therefore, availability of the workers who know the plant is an advantage to operate the decommission.

On the other hand, immediately after the shutdown of the reactor, the radioactive dosage is still high. This makes the decommissioning operation difficult. We need to develop some kind of technology, for instance, using a special robot.

1.3.2 Safe enclosure method

This method first keeps the reactor in storage and waits for some period (it is usually more than 30 years). The pros and cons of this method are:

  • Pros: The radioactive dosage is relatively low when operating the decommission
  • Cons: The workers who know the plant details are no longer available

The process is relatively easier than the immediate dismantling method since the radioactive dosage will be relatively low. But we can never completely remove the radioactive contamination in several decades, the difficulty is only relatively lower.

On the other hand, this method needs more than thirty to fifty years of storage time, we usually cannot expect the help from the workers who know the plant details.

1.4 Part 1 Summary

Everything on the earth has a limited lifetime. A nuclear reactor is not an exception. However, I haven’t heard what happens when a reactor reaches the end of its design lifespan. I can easily imagine that we cannot trash it like a piece of paper.

In this article, we talk about what is a nuclear decommissioning and how could we do that. My main concern is actually “Is it really possible and how?”, “How much does it cost? Who pays that?”, and “What should we do about the nuclear waste?” The first question has been answered in this article: It might be possible, but it is difficult.

Before the Fukushima disaster, I was less concerned about the energy problem. I simply thought, “Anyone should have thought through it.” However, what we saw in the Fukushima disaster was “No one thought about it.” and “No one wants to take responsibility.” The responsible people told us, “it’s unexpected.” One of the strangest logic was that “It’s unexpected, therefore no one takes responsibility. It is a natural disaster.” I can hardly understand that a nuclear reactor explosion is a natural disaster. I personally thought, I don’t want to die with the reason of “unexpected.” The Fukushima disaster opened my eyes, it said “Hey you, wake up!” But I don’t know what I can do about this. Maybe it is better if I keep sleeping, ignoring the Fukushima disaster. However, I also know that if everyone keeps sleeping, the next disaster is unavoidable. Whether I am ignoring the problem or not, Japan has around 60 nuclear reactors. That fact always remains. I asked myself, “Why did this happen to us?” A part of me still wants to go back to be a person who doesn’t think about this problem. On the other hand, I cannot stop thinking what Fukushima really means: What does it mean to use an energy source that forces us to lose a part of our country? What does it mean to use air conditioning and to access the internet powered by nuclear reactors which endanger the life of people, especially children’s lives.

Then, what can I do about it? Maybe I can do nothing. I still would like to ignore the problem since thinking is hard. However, I also said to myself, “If I cannot change anything, does it really matter? It isn’t hard to try to think about this problem. If I can achieve something, that’s pure luck, but if not, so what?” So I started researching the energy problem. It’s fine even if I can only understand just a part of it. I just don’t want to hear the excuse again, “Sorry, that is a unexpected natural disaster, we can do nothing for you.”

In part two of this article, I would like to look into my next questions, “How much does the nuclear decommissioning cost, and how long does it take?”, “What should we do with the nuclear waste?”

References

  1. [Fukumoto 1] ふくもと まさお, “ドイツ・低線量被曝から28年 –チェルノブイリはおわっていない”, 言叢社, 2014 (Masao Fukumoto, “Germany, 28 years after the low level dosage exposure — Chernobyl has not been ended”, Gensou publishers, 2014, ISBN-13: 978-4862090478)
  2. [Fukumoto 2] 日本テレビ, NNNドキュメント’13, 活断層と原発、そして廃炉, http://www.ntv.co.jp/document/news41_2.html, 2013 (Japan TV, NNN document’13, Active fault, nuclear power plant, and nuclear decommission, http://www.ntv.co.jp/document/news41_2.html, 2013)
  3. [NHK special document 2009.10.11] NHK スペシャル 2009.10.11, 原発解体~世界の現場は警告する~ http://www.nhk.or.jp/special/detail/2009/1011/ (NHK Special, Decompose the nuclear plants: the field of the world warns us, http://www.nhk.or.jp/special/detail/2009/1011/)

数ヶ月前、ドイツの国際放送Deutsche Welleのラジオ番組を作るという大学院生のプロジェクトで取材を受けた。ケルン大学に留学しているというメキシコ出身の彼女は、数あるトピックの中から、東日本大震災・原発事故のことを選んでくれたようだ。インタビューの最後に、震災を通して学んだことは何ですか?と聞かれ、私の口から出たことは、

「政府は信用できない、ということです」

だった。

そんな質問が来ると思っていなかったから、そういう答えを準備していたわけじゃない。

ここのところ、“今報道されていることが本当のことかどうかわからない”ことがわかってきたこと、報道を鵜呑みにして思考停止してはいけないという思いを抱き始めたことが、こうしてとっさに言葉に出たのかも知れない。

そして先日、ああ、やっぱりそうだ・・・と思わされる話を聞いた。

9月、国際シンポジウム* に参加するため来独したインディペンデント・ウェブ・ジャーナル(略称:IWJ)代表でジャーナリストの岩上安身さんがベルリンに取材のため立ち寄り、私たちのグループのために時間を取っていろいろお話ししてくださった。

(*ドイツ、エアランゲンでのシンポジウム「災害、デジタル公共性、民主主義の未来」に同じく出席したジャーナリスト高松平蔵氏の報告→ http://toyokeizai.net/articles/-/48727 )

岩上さんは日本のテレビ番組でもコメンテーターとしておなじみだそうだが、私は岩上さんとIWJのことを『自由報道協会が追った3.11』を読んで知っていたので、直接お話が聞けることはうれしい機会だった。

岩上さんは、これまでのご自身の豊富な取材経験から得た鋭い洞察力で、今世の中で起きている出来事を、一般メディアであまり報道されない視点で続々と切っていき、私も頭が追いつくように必死に聞き入った。お話の内容があまりにもボリュームがあったので、主要なトッピックをざっと箇条書きにしてみる。

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TPPで日本はアメリカの経済植民地になる

新自由主義は一部にしか利益をもたらさず国内投資なし、一層格差を広げる、刹那的

安倍首相や竹中平蔵氏などは新自由主義者である

米「ジャイアン」と日「スネオ」(←岩上氏命名)的関係の従米政権

アメリカの日本改造の意図をあからさまに言及する米政治家の発言や報告書の存在

エネルギーと覇権、軍事、通貨

ロシアとヨーロッパ、アメリカの関係

ウクライナのネオナチ、ウクライナ戦争の真相、アメリカの偽証

マレーシア航空墜落事件やISISの背後にあるもの

PNAC(アメリカ新世紀プロジェクト)とアメリカのネオコン

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話の中で、岩上さんが 「あることがないことになっている」とされる、と言った。

その言葉を聞いて、福島の放射能汚染、被曝についてもぴったりと当てはまるな、と思った。

原発のことだけではなく、「慰安婦」をはじめとする歴史認識問題、集団的自衛権行使のための憲法解釈変更などについても、今の日本政府やそれに迎合するメディアには、

「あることがないことになっている」

「問題のすり替え」

「なし崩し的に」

この3語が当てはまると思われることが、あまりにも多くないか。

日本の「記者クラブ」は大手新聞社の記者のみが許され、フリーランスのジャーナリストは入れてもらえないそうだ。それゆえ、現在の日本の大手新聞、テレビというのは、自由な報道がなされない体質になっていきてるようだ。だから、IWJのような、独自に取材をし、インターネットで情報を配信する独立したメディアがこれから真実を伝えていくキープレイヤーになっていくに違いない。

人はそれぞれ自らの経験や見聞したことから物事を判断するが、私もそのプロセスを経た上で、岩上さんから聞いたことに納得する部分が多々あり、一般に報道されていることをそのまま信じていたら、とんでもない誤った理解をしていたところだ、と思わされた。

いろいろお話を聞いて、今の日本像や世界像が私の中でなんとなく浮かび上がってきた。

このままじゃ、いけない。

IWJ岩上さんと原さん

IWJ代表の岩上安身さん(右)と、スタッフの原さん in Berlin

  ※インディペンデント・ウェブ・ジャーナル(略称:IWJ)は、ジャーナリスト岩上安身氏が201012月に設立した、インターネットを活用し、市民に根ざした新しいジャーナリズムのありかたを具現化するインターネット報道メディア。岩上氏の本拠地として、また、岩上安身の提唱する「兼業ジャーナリスト(市民ジャーナリスト)」「中継市民」の活躍の場として、日々、情報を発信している。

その活動を支えているのが一般市民からの会費やカンパだが、まだまだ運営費全体をカバーするほどの収入はないそうだ。今の日本に危機感を覚え、自分に何ができるのか?と悶々としている人は、IWJの会員として、こうした真実を伝える独立したメディアの存続を支えていくことも一つだろう。

ホームページでは、配信された動画のタイトルが並ぶ。それを目にすれば、今あなたが本当に知らなければならないことが見えてくるだろう。 http://iwj.co.jp/