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ソーラーハウス (Effizienzhaus) 見学

2016 年 2 月 1 日に何人かで Berlin の Fasanenstrasse にあるソーラーハウスを見学する機会がありました.このソーラーハウスは Bundesministerium fürUmwelt, Naturschutz, Bau und Reaktorsicherheit によって実験として建てられたものです.プロジェクトは Effizienzhaus Plus mit Elektromobilität と言い,「電気自動車を含む効率的家屋プラス」とでも訳せばいいでしょうか.

このソーラーハウスはドイツでは 35 件建てられたエネルギー効率の高い実験用の通常の家屋の1軒です.それぞれが異なる建築家によるもので,一件一件異なります.ベルリンのものは写真のようにかなりモダンなキューブ形状です.しかし,伝統的なドイツの家のようなものもあります.

Berlin にある Effizienzhaus Plus
Berlin にある Effizienzhaus Plus
Effizienzhaus Plus 内
見学会での説明会 (Effizienzhaus Plus 内)

エネルギーの効率的な家屋,と言っても Plus と名前にあるように,省エネではなく,「年間で作るエネルギーが消費するエネルギー以上になる家」の実験として建てられています.これは電気自動車 1 台を含みます.それぞれの家では,公募で選ばれた家族が1 年住んでエネルギー消費の実験をします.この家にはこれまで 2 家族がそれぞれ 1 年住みました.

この家はソーラーパネルを使って電気を生産し,蓄電池に貯める方式です.この家の建築家は家庭でのエネルギー消費は,主に朝,そして夕方から夜にかけてあり,昼は家族が仕事や学校に行くために下がると予想し,ソーラーパネルを東と西の壁に設置してあります.また,外観 (色) を重視したため,エネルギー変換効率が10% と比較的効率の低いパネルを利用しています.

ドイツでは家屋では暖房でのエネルギー使用が大きいので,窓は 3 重構造の熱を伝えにくいもの,換気には熱交換器,暖房はヒートポンプを利用し,南側と北側は大きなガラスで採光を重視,また,電灯は LED を利用,壁も断熱を重視するなど,様々な省エネの技術を利用しています.また電気エネルギーだけで全てすむようにガスなどは利用されていません.

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熱を逃がさない 3 重構造ガラス

実験結果は,初年度には家で消費する分のエネルギーは生産できましたが,自動車の分まではまかなえませんでした.しかし,この家ではエネルギー消費をモニタリングしており,2つの大きなエネルギー消費源が特定されました.1つは熱交換器が製造した会社の説明通りに作動しなかったことで,これは交換されました.そして,リビングからすぐ階段がありますが,リビングの熱が階段に抜けていくことも判明しました.そこでリビングの出口にガラスのドアを1枚設置しました.この変更の後,2年目にはこの家で生産されたエネルギーの総量は年間を通すと,家屋と電気自動車のエネルギー消費を含めて上まわりました.また,動きセンサーライトは,猫を飼っていた最初の家族には合わないという話もありました.

様々な最新技術が使われているのに,目標達成には結局「1枚のドア」が足りなかったということは興味深いことでした.やはり,実際に実験する必要があるのです.また,利用者のマインドが省エネをあまり考えずに,少し浪費する傾向があったことです.確かにエネルギーが全部自分の家で生産されるとなると,あまり省エネを考えなくなるかもしれません.しかしそれは社会のマインドとしてどうなのかという新しい問題を提起します.あとは,空気の熱を逃がさないという意味では窓は開けない設計というものもあるそうなのですが,住んだ家族には窓が手動で開けられるということは重要な要素だという結果などもあります.これらの結果は全て online で見ることができます.

さて,ここからは私の感想です.

私がこの家を見て思ったことは,「こんなボーグキューブみたいな家には住みたくないな」でした.ただ,これはこの家が3年で解体する実験予定だったことや,建築家のデザインによるもので,他の Effizienzhaus Plus には「この家なら住んでみたい」というものもありました.また外観は私の好みではありませんが,内装は良かったと思います.

今回の見学では,技術の成熟が見えてきたことが印象に残りました.この家は既に 2012 年のものですが,ドイツの技術は既に,

省エネではなく,エネルギー生産であること

です.そして,先にデザインの好みの話をしましたが,私が感じた問題は既に技術的な性能問題ではありません.デザインが重要になってきたということは技術が成熟してきていることを示していると思います.私は 1999 年に 5 色の iMacというコンピュータが登場した時のことを思い出します.私にとって,コンピュータは性能でした.「CPU が Power PC 750 の 266MHz はいいが,メモリが少ないかな.」などと思っていました.しかしその当時,あまりコンピュータになじみのない人達が,「何色の iMac がいい?」と,色の話をしていたことに驚きました.インテリアのデザインの一部としてコンピュータが考えられた時,技術の成熟を感じました.一般に広まる時には,性能はあまり問題ではないのだと驚きでした.

今回の家でもそうでしたが,ソーラパネルの性能は落としても色を重視するというデザインが考えられていました.今後重要なのは,色のあるソーラーパネルなどかもしれません.今後,様々な色のパネルが生まれ,それがデザインとなって,やがてソーラーパネルとはわからなくなる時に,この技術はより成熟するのでしょう.このような家は,エネルギー効率だけを語る時代ではなくなりつつあるまで進歩していました.たとえば,緑のソーラーパネルのある家は,遠目には庭の植物と一体化するようになるかもしれません.

自然エネルギーの他のもの,例えば風力も,風力と見てわかるようなものではまだまだかもしれません.それはオランダの風車のように風景となる方向に進歩するかもしれません.もしかしたら遠くから見たら木のように見える風力発電機ができるかもしれません.垂直軸発電方式など既にある技術がやがて景観を考えたデザインとなる日が来るでしょう.風力発電地域はいつか森のようにしか見えないという時が来るでしょうか.いや,本物の森の木々の中に気がつかないように風力発電機がある,そういう形で技術が成熟していくのかもしれません.発電所は自然がいっぱいある公園であるという未来をふと想像してしまうような家でした.

自然エネルギー促進のための共有経済の試み

自然エネルギーへの転換を進めるために,市民にできることはなんでしょうか.私は時々そういうことを考えます.今日は共有経済という考えを使って,自然エネルギーへの転換を図っている人達の記事を紹介します.

共有経済 (Sharing economy) はモノやサービスという資源を共同で利用する形の経済活動です.ソフトウェアの共有という形で Open Source が,オークションの共有という形で eBay が,Uber のような車の共有,Airbnb や CouchSurfing のように部屋の共有などがあります.もちろん,時には行きすぎて共有の範囲を越えてしまう問題なども含みながら,それでも様々な共有経済がでてきています.

自然エネルギーも共有経済を使えないでしょうか? 私はアパート暮らしで,屋根がありません.ソーラーパネルを自分の家の屋根に置くことはできません.風力発電機を置く庭がありません.しかし,IT の力で同じことはできないでしょうか.屋根はあるが,ソーラーに投資するお金がない人と,ソーラーに投資したいが,屋根がない人をつなぐのはどうでしょうか.

実はそういう経済が始まっています.2015年 4 月にソーラーの共有をはじめたのは,Yeloha [1] というアメリカのスタートアップです.たとえば,65 ドルで1 枚のソーラーパネルを 1 年間借りることができます.発電した電気は,屋根を貸した側が買ったり,売電し,そのうちの何割かが投資者に戻る形になっています.これで投資対象になるほどのお金もうけができるかというと,それははっきりしないのですが,自然エネルギーの発展を望む市民が少しだけ投資することに参加できるようになります.そしてそれは自然エネルギーの発展に寄与できます.Yeloha では,屋根を貸す側の地理的条件や,建物などを判断して年間どれだけの電気が作れるかなどを評価するソフトウェアを開発しているようです[2].

このような考えやビジネスが小規模の風力発電,バイオ発電などにも適用され,自然エネルギーの発展を進めてくれたらいいなと私は考えました.こういうものが日本やドイツでもでてこないかと期待します.

現在(2016-1-23(Sat)),原油の価格が下がっています.これでエネルギーの価格が少し安くなるでしょうが,こういう時にこそ地産地消の自然エネルギーに投資しておくのが良いと私は思います.再びエネルギー価格がグローバルで上がった時への備えとなるからです.

参考文献

  1. Yeloha, http://www.yeloha.com/
  2. Lauren J. Young, Startup Profile: Yeloha Brings Solar Into the
    Sharing Economy,
    http://spectrum.ieee.org/at-work/start-ups/startup-profile-yeloha-brings-solar-into-the-sharing-economy,
    IEEE Spectrum, Nov. 2015