おしどりマコ講演会 2019 報告 (3)

書籍: 放射能測定マップ+読み解き集

おしどりさんは講演で書籍の「放射能測定マップ+読み解き集」を紹介されました。これは情報は自分で集めないと信頼できないと考えた人たちが各地で放射線の市民測定を行いはじめたことがきっかけです。後にネットワーク化しようという人たちもあらわれ,その結果できた本,ということです。(草の根的に行なわれたことなどがあり,このネットワークに加わっていない市民測定の人たちもいるようです。) この本では, 4 千人以上の人々が 3 千地点以上の土を測定してまとめています。

https://minnanods.net/

東京の汚染に関しては,流通している食物を調べている限り,まず汚染はないということです。ただし山菜などの汚染は残念ながら残っていることが報告されています。

2019-02-06 放射能測定マップ+読み解き集の紹介
2019-02-06 放射能測定マップ+読み解き集の紹介

都市濃縮現象

東京大学の発表ですが,東京の一部の土地に放射性物質汚染が観測されることが紹介されました。

これはコンクリートが多く,放射性物質で汚染された水が濃縮してしまいホットスポットとなる現象がみつかっていることです。

このホットスポット調査をしている人々がいてその紹介がありました。5 cm 高での測定で,3.3 マイクロシーベルト/h も見つかることがあるそうです。(これは一様に汚染されていることを前提として空間線量の測定方法,地上 1m での測定,とは異なりますので,通常の空間線量とは比較できないことには注意が必要ですが,ホットスポットの場合には有効です。) この方々は測定して汚染された公園などがみつかると,行政に除染を願い出るなどして東京都民の安全のためのボランティアをしているそうです。私はこれはボランティアに頼るのではなく行政が組織的に調査をしても良いのではないかと思います。

2019-02-06 東京のホットスポット調査をしているボランティア紹介
2019-02-06 東京のホットスポット調査をしているボランティア紹介

オリンピックと復興の関連

会場からは,オリンピックの安全や,オリンピックと復興の関連について以下のような意見や質問がありました。

Q: アンダーコントロールの発言で誘致したオリンピックであったが,汚染水問題など現状ではアンダーコントロールであるかの疑問がある。そのあたりはどうお考えか?

A: 誘致の 10 日前に,フクシマでは,汚染水漏洩で level 3 の事故を起こしたため,東電にはそのような状況で総理にアンダーコントロールと報告したのかとの質問が記者からあった。しかし,東電自身からは,彼らも発言の意味を理解できず政府に趣旨を問い合わせているという回答であったという。確かにアンダーコントロールかどうかは疑問がある。

Q: 日本にいた頃は,国が決めたポジティブな政策には反対しにくい雰囲気を感じていた。復興を先に確実にして欲しいとはいえ,だからオリンピックに反対というのは言いにくいかもしれない。日本国内ではどういう雰囲気があるのか?

A: 確かに「オリンピックは復興の助けになる」,ということを言う人もおり,それに疑問を呈すると,復興を妨げるのか,反県民,反村民などと言われる場合がある。そもそも東京にスタジアムを作って福島の復興になるという部分がわからないので,復興の助けになるのならそのロジックを丁寧に説明して欲しい。しかし,議論がかみあわないようなこともしばしば見うけられる。もう少し冷静に福島や日本の将来を考えて議論ができると良い。

議論の時,おしどりさんからは補足として以下がありました。

先の福島第一の高濃度汚染水タンクの解体作業に外国人研修生が利用された事件も,オリンピックの建設関係に人手が取られて,福島の復興には人手が不足してしまっている場合があり,そこに外国人労働者があてられる場合があるという指摘がありました。

最近の報道でも,「『新国立競技場は間に合わせるけれど、被災地は遅れたって構わない』。そう言われているようだ」という岩手の復興にかかわる人の談話がありました。(https://digital.asahi.com/articles/ASM330D32M32UTIL02K.html)

2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けた首都直下地震対策ロードマップ

政府は東京に直下型地震が来た場合に防災する計画を発表しています。オリンピックと関連した情報は以下のようにいくつか公開されています。国土交通省の見解では,オリンピックの年付近の地震の可能性が排除できないので,どのように対策を練るかということに関する情報です。

国土交通省防災ポータル
http://www.mlit.go.jp/river/bousai/olympic/index.html
http://www.mlit.go.jp/river/bousai/earthquake/pdf/earthquake/7kai-ref02-01.pdf

我が国の地震対策の概要
http://www.bousai.go.jp/jishin/gaiyou_top.html

我が国で発生する地震
http://www.bousai.go.jp/jishin/pdf/hassei-jishin.pdf

最終処分場に関して

除染した際の除去土壌の処理については,中間貯蔵を福島がうけおうが,福島には最終処分場は作らないことで政府との合意がなされています。30 年を経過した後に福島の中間貯蔵除去土壌は県外に移されることになっており,そのための法律も成立しています。

しかし,2019 年現在,福島県外で最終処分場を受けおう場所のめどがありません。そこで,特定の場所に最終処分をするのではなく,日本全国で除去土壌を再利用するという考えが検討され,そのための実験が開始されています。

中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/

最終処分場を負担する場所が一箇所もみつからないのなら,日本全国に分散させて負担するという考え方ですが,私にはあまり良い考えに思えません。しかしではどうするのかということは難しい問題です。ただ,私に一つ確実に言えるのはこういう問題を今後拡大しないために,早期に原子炉を廃炉にし,廃棄物をこれ以上増やさないことです。しかし,廃炉をするにしても最終処分場がない現状では中間貯蔵などで問題を先送りにするしかなく,我々は子孫に負担をおしつけることになります。

ここでまず,汚染土を日本中に分散させる方法しかないのか? ということが疑問です。多くの市町村が受け入れることになるでしょうが,その受け入れ地との議論やコンセンサスを得られるのか,という疑問が残ります。一方で福島に全てを負担させるわけにもいかないこともあると思います。これは我々が今後直面していく問題です。既に法律で時間も区切られました。そこで,上記の環境省の資料は一読の価値があると思います。その中には,「再生利用の必要性や放射線に係る安全性に関する知見を幅広い国民と共有し」ということも書かれています。現時点で私はこの部分はほとんどなされていないのではないかと感じています。これは議論していく必要のある問題だと思います。

また,これまでは中間貯蔵場,または最終処分場にしか置けないとされていた汚染土が,リサイクル可能にされる場合は問題です。福島は最終処分場にはしないという約束で汚染土を 30 年間受けいれました。しかし,何かの理由や処理により「汚染土」が「リサイクル可能土」へと変わることが可能になる場合がでてきます。このため,汚染土として集められた土が,福島県内であっても,実質的に永久に処分されることが制度上可能になります。その場合どのように処理するかの条件などがあるでしょう。そして,名目上は最終処分ではなく,リサイクルされたということになるのではと思います。しかし,私はこれには問題があると思います。

現状では経済と原発の関係について議論もありますが,廃炉と最終処分と経済という部分の議論はあまりみかけません。ドイツの Greifswald で実際に廃炉を行なっているところからは,廃炉の費用は 1 基あたり日本円で 5000 億円では難しいことが報告されています。また,イギリスの Nuclear Decommissioning Authority https://www.gov.uk/government/organisations/nuclear-decommissioning-authority
では,この廃炉や最終処分の費用の見積りが年々上がっていき,2015 年には 1600 億ポンド,20 兆円を越えた金額です。しかし,国会の質問では日本ではこの 10 分の 1 程度,1 基あたり数百億円でできるという話になっています (例,衆議院での質問 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a196413.htm) 既に廃炉作業を 30 年以上すすめている実績のある所の価格よりもまだ大型の商用炉で廃炉を行なっていないところがなぜこんなにも安くできると見積っているのかが判明しません。イギリスは日本よりも早く原発を作ったので,既に廃炉作業に入っている原発がいくつもあります。私にはどちらの価格が正しいのかが判断をできないのですが,実績のある複数の数の方を考えると,廃炉と最終処分は,経済,特に日本の今後の国際競争力に重くのしかかってくることを危惧します。私たちは子孫の経済に足かせをつくっているのではという心配がぬぐえません。少なくともどれだけの負担になるかの見積りが必要で,そして計画をたてて対処が必要です。そのためにも最終処分場の議論がもっと進まないとまずいと思います。それは国の経済が将来どうなってしまうのかにかかわる問題であると思います。

おわりに

フクシマの問題は様々な面で終わっていない,あるいは新たな問題が始まっていると私は感じました。事故当時の人たちの健康の問題,帰還して農業を始めた人たちの問題,外国人労働者の問題,汚染土の問題,など,これだけにとどまらず,汚染水の問題もあります。起きてしまった事故に対しては,それをどうするかそれぞれを考えていかねばならないこともいくつもあることがわかりました。一方で,もうこれ以上の問題を起こす可能性もつみとっておく必要をまた強く感じました。そして子孫への負担をできるだけ押しつけないために,一つできることがあります。それは再生可能で,持続可能なエネルギー源に我々ができるだけ投資をしておくことです。石油もウランも世界でとれる地域は限られ,かつ,いつかは枯渇する資源です。我々が子孫に残すものが核のゴミだけになってしまうとしたら,なんともひどいことではないでしょうか。少なくとも日々の生活に必要なエネルギーは子や孫に残しておくべきだと思います。

おしどりマコ講演会 2019 報告 (2)

子供の健康: 調査の検査結果数に関して

これは複雑なことになっています。おしどりさんの指摘した問題点をかいつまむと,

  • がんが見つかった場合でも福島のがん発症数に入らない場合がある。
  • 2012 年以降に生まれた子どもは調査対象ではない。

などにより,がんの発症数として報告されている数に入らないがんが存在することに注意が必要になるということです。数え方などは発表されていますが,単純にここでのがんの発症数は,素人が考えるような,「福島に当時いて現在がんを発症した患者の数」とは違うことに注意が必要です。おしどりさんの指摘はこれでは正確な患者の数が把握できないだけではなく,現在の方式では,上記の素人感覚に比較して患者の数が減るようになっていることも問題として指摘されていました。

これについてもう少し説明してみます。

福島県では,県民健康調査が行なわれています。これについては放射線医学県民健康管理センターのサイトが http://fukushima-mimamori.jp/ や,https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kojyosen.html にあります。

検査対象の子ども達は福島県に住んでいた事故当時 18 歳以下および 2011 年内に生まれた子ども達でその数は約 38 万人と考えられています。ここで甲状腺の検査は 20 歳を越えるまでは 2 年ごとに行うことになっています。(20 歳を越えた場合など,より詳しくは上記のサイトを参照) また,県外に移転した人も検査対象ではありますが,私の探した限りでは何らかの義務があるという記述がみつかりませんでした。この場合,年々検査する人数が減るという可能性もあります。

ここでの検査方法は上記のサイトにもありますが,一次検査と二次検査があります。一次検査では A1, A2, B などの判定結果がつけられます。これは,しこりなどの大きさの判定であり,この結果はそのまま手術が必要ながんであるかどうかとかいう基準ではないというおことわりがあります(http://fukushima-mimamori.jp/thyroid-examination/)。治療の判定は判定委員会によるということでした。検査と治療とは別になることは注意が必要です。

すると「県民健康調査での診断,がんとして治療を受けた人の人数」と,「がんとして治療を受けた人数」は実は一致しないことに注意が必要です。この制度に関してはどのような手続きかの発表はなされているのですが,検査で治療を受けた数だけを見ていると誤解を生む場合があります。

まずは,県立医大以外でのがんの手術は二巡目以降はここでの数に入らないことです。他県に移動してからがんがみつかり,手術した場合は福島県の数に入りません。これは実務的にその数を数えるのが難しいなどの理由があるようですが,手続き的な問題で解決可能なはずです。この問題は福島県に当時いて,後に県外に移動してしまい発症したものが含まれなくなってしまうことです。

2019-02-06 甲状腺ガンの検査と治療と数え方の違い
2019-02-06 甲状腺ガンの検査と治療と数え方の違い

この場合,原発と関係なく発症したかどうかなどの議論はあるにせよ,事故当時福島県にいたかどうかを追跡しておくような仕組みが必要です。そうでなければ,避難などで移住してしまうと,調査の対象者数そのものが減少するので,がんの数が減ったように見えてしまいます。すると,がんの発症率が下がったのか,人がいなくなったので減ったのかの区別がつきません。ただし,これに関しては行政側も不備があると考えているようで,実は対策があります。しかしそれには別の問題があるので,それは後に説明します。

もう一つの問題は,地元の医師ががんと判断した場合,二次検査まで行ったとしても,その治療が半年後になった場合には,やはりこの検査での結果としての数に入らないことです。例として,図 http://fukushima-mimamori.jp/thyroid-examination/images/img_inspection.png での診断基準で判断の A1 A2 相当とされた場合などで,しかし,半年後にはがんとして治療を受けた場合です。

確かにがんであっても検査からの治療ではないので,調査の数には入れないということになります。しかし,結局がんであったのに,福島県の調査のがんの数には入らないことになります。

また,甲状腺調査に関しては,ヨウ素 131 の半減期が 8 日程度ということから,2012 年以降に生まれた子ども達は検査対象ではありません。(チェルノブイリでは検査対象です。) 半減期は半分になる期間であり,ヨウ素 131 はバセドウ病などの治療に利用されることがあり,その場合予防策として影響ははっきりしていないとしても安全のために 6 ヶ月は妊娠を避ける必要があるというガイドラインがあります。(例: 腫瘍・免疫核医学研究会http://oncology.jsnm.org/files/pdf/thyroid-guideline_201408.pdf) すると妊娠までの 6 ヶ月,誕生まで 10 ヶ月などを考えると,少なくとも 2012年の子どもたちの調査は必要なのではないかという疑問があります。ここでもう一つの問題は,調べていないのであれば,チェルノブイリとの比較ができないことです。できないながら,チェルノブイリよりも子どものガンの発症率が低いという記事を拝見することがあります。このような情報では混乱が生じます。比較対象は何にするのかをそろえるのは困難があることも予想できますが,少なくともチェルノブイリと同等のデータを集める,できればそれ以上のデータを収集することはできないでしょうか。

また,これは危険を警鐘する側にも見られる問題ですが,発症数しか述べないという問題があります。確かにどれだけのガンが出たのか,それは気になる数です。しかし,被害の可能性を論じる場合,どれだけの人を検査したかに関係します。つまり調査人数が減れば,発症し,治療する人間もそれだけで減りますが,それは発症数だけではわかりません。また,検査する人数が増えて発症数が増えたから,それでガンになる可能性が高くなっているというわけではありません。発症数ばかり言う問題は,仮の話として,発症数を減らし,県民を安心させるために,「検査数を減らす`」ということにでもなれば,おかしなことになってしまいます。検査数,サンプル数が多い方が母集団の推定は正確になります。ですから,判断をする方も発症数ばかりに気をとられるのではなく,発症の可能性の分母の検査数にも注意を払うべきだと思います。発症数はわかりやすい数ですが,検査方法によって左右される数であることは注意すべきです。たとえば,検査数が減っているために発症数が年々減る場合があるとします。それか,病気になる可能性が減っているといういう判断をすれば誤ってしまいます。

このように調査の方法によって発症数が変動してしまいますが,調査の数をどう出すかを詳しく見ていくと,個人の健康を守り,また必要な補償などのためには,できるだけ網羅的な調査が必要であると私は思います。その観点からすれば現在の調査方法には改善の余地があると思います。

また,福島県立医大の持つ情報に関しては,福島県立医大の研究者のみが情報にアクセス可能であり,他大学の研究者にもアクセスはできないという話がありました。発表の場合には学内で倫理審査があり、県民の利益があるかの審査があり,県民に不安となるような情報は公開しないということも場合によっては可能ということでした。またこれらは情報公開対象でもありません。そうすると,甲状腺ガンのより正確な数は把握されている可能性はありますが,一般には知ることができないという状況です。

全国がん登録について

これまではがんの患者のデータは都道府県ごとでした。そのため,上記の移住によって治療場所が変わるとデータの重複などの問題がありました。また,福島の甲状腺検査には逆の問題があることを前節では指摘しました。

この問題は少なくとも第一の問題に関しては政府も正確な数字の把握ががんの治療に必要であるとして,すべての病院ががんの情報を提出するという仕組みが 2016 年にできています。それが全国がん登録です。この制度自体は超高齢化社会の死因原因の 1 位のがん対策を目的とするとあり,2013 年 12 月に「がん登録等の推進に関する法律」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%82%93%E7%99%BB%E9%8C%B2%E7%AD%89%E3%81%AE%E6%8E%A8%E9%80%B2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B によって成立し,2016 年に施行されています。

https://ganjoho.jp/reg_stat/can_reg/national/public/about.html

この制度によって福島にいた子ども達の甲状腺がんの状況「も」全国的に把握できる可能性があります。しかし,その情報は個人情報保護のために,行政が認めた研究者以外には非公開です。会場からは新聞社などのマスコミはアクセスできるのかとの質問がありましたが,おしどりさんはそれも非公開と回答でした。

もう一つ,後に知人から指摘がありました。それは全国がん登録が 2016 年から施行されたというタイミングです。このため,たとえ情報が公開されたとしても,事故前のデータはありません。ですから事故前後のデータの比較はできません。

OECD Nuclear Energy Agency の会議への参加報告

おしどりさんは,OECD Nuclear Energy Agency の会議へも参加し,取材をしています。これは原子力産業の会議です。会議参加者の中には,原子力産業のセールスの人たちもいてその人たちに取材ができたそうです。セールスとしては,フクシマ以前は「事故は起きない」ということを主に,フクシマ以降は,「起ってもあまり問題はない」というセールスを展開するような戦略を推奨するとのことです。特に事故の起こった地域の住民が自分で帰還し,住み続けることを決め、自ら除染することはモデルケースとなるので業界としては後押しするべきだという意見があったという報告でした。また,特に原爆を経験した日本が原発事故を大丈夫で問題ないとすることは業界にプラスになるという情報が共有されていたということでした。

おしどりマコ講演会 2019 報告 (1)

2019 年 2 月はじめ,おしどりマコさん,ケンさんがフランクフルトのエキュメ二カル (http://www.zentrum-oekumene.de/)などの協力でヨーロッパのエネルギー政策に関して学ぶためにヨーロッパの一部を回られました。その際,SNB も日本の状況についての情報などを伺いたいとベルリンへの招待をし,今回それがかないました。2月 6 日に Versammlungsraum im Mehringhof Gneisenaustraße 2a, 10961 Berlinにて一般に公開された形で 19:00 から 22:00 までの講演,質疑応答がありました。

このブログはそこでの議題や質問,応答などのまとめです。

news clip
2019-02-06 おしどりマコ講演会

おしどりマコさんの自己紹介と原発問題へのかかわり

2011 年にはおしどりマコさんはテレビの仕事をしていました。フクシマの事故の際,東京は大丈夫という報道を聞いていました。一方,多くの有名な俳優など仕事の関係者が東京から避難をする場面に出会い,また,仕事では,視聴者に心配させないように「原発」「爆発」という言葉を使わないようにという通達を受け,いったい何が起きているのだろうという疑問を持ったそうです。それがきっかけで原発事故の取材を始め,2011 年 4 月から東電の会見に出席するなど,原発関係の情報に触れるようになりました。

東電の会見は最初の頃には国民の関心も高く,100人以上のジャーナリストが参加していたとのことですが,近年は 10 人以下であるということです。また,新聞社などのプロの記者には数年での人事異動があることがあり、当時から現在も取材に来ているのは,おしどりさんくらいということです。その上,東電側の説明側もやはり人事異動があり,人の入れ替わりがあり,また,以前の人と報告が一貫しないということもあるということです。講演では東電側の説明する人と時間経過のグラフを拝見できました。

2019-02-06 Tepco 記者会見人物変遷図
2019-02-06 Tepco 記者会見人物変遷図

情報の変遷の例

当時の説明と異なる例としては,山下俊一氏の 2011 年 3 月に行なわれた「福島県放射線健康リスクアドバイザーによる講演会」での「危険だと思いすぎる方が健康に被害がある」といわゆる「ニコニコしていれば放射線の影響が避けられる」という発言がありました。これについては日本国内のみならず,世界の主要誌が本人へのインタビューを行ない世界中の新聞,テレビで有名になりました。例えば現在でもイギリスのガーディアン (https://www.theguardian.com/world/2012/mar/09/fukushima-residents-plagued-health-fears),ドイツのシュピーゲル (http://www.spiegel.de/international/world/studying-the-fukushima-aftermath-people-are-suffering-from-radiophobia-a-780810.html) などの記事が読めます。後のインタビューでは,本当の意図は福島県民がおびえているので,それを緩和するためだったという発言もみうけられます。筆者もこの講演をビデオで拝見しましたが,あの講演で,専門家の発言だから信じてしまって大丈夫だと思った人もいたかもしれません。それによって被曝をうけた人はどうすればいいのであろうかという疑問が残ります。しかし,これは新しい情報というわけではありません。今回の講演で指摘されたのは,2019/1/28 東京新聞こちら特捜部の<背信の果て>((2)「ニコニコ」発言の一方で被ばく「深刻」真意はhttp://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019012802000128.html)の記事では,山下氏が大丈夫と発言していたほぼ同時期に,彼は子どもの被ばくについて「深刻な可能性」と政府への見解を示したことが記録されていたことが報道されたということでした。当時の情報で一般に知られていなかったことが現在になってでてきていることがあるというもののいくつかの例の 1 つとしてこれが紹介されました。

2019-02-06 情報が変遷する例 2019/1/28 山下氏の見解記録
2019-02-06 情報が変遷する例 2019/1/28 山下氏の見解記録

復興庁の「放射線のホント」について

復興庁が「放射線のホント」という冊子を以下のように公開しています。

http://www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2017/senryaku/pdf/0313houshasen_no_honto.pdf

この放射線のホントについて,おしどりさんからの指摘は,「日本の食品基準は最も厳しいとされています。」という部分についてです。これは基準が厳しく食は安全という意味で使われています。しかしその検査量に関しては特に他国と比較して厳しくより安全であるというわけではないということでした。つまり検査の量が少なければ,結果としてこの安全基準が厳しいにもかかわらず,実際には検査されていないものが流通する可能性があるというものです。検査数が少ない場合,基準を越える Bq/kg の食品が流通される可能性が上がります。おしどりさんの示した資料では確かに日本の場合,そのような基準を越える Bq/kg の食品の流通される可能性の上限が他の国よりも多くなっていました。

これについてこのブログを書くにあたって私も少し調べましたが,直接の資料がでてきません。次回の機会におしどりさん達に詳しく確認できればと思います。しかし参考になる資料はあります。厚生労働省医薬食品局食品安全部長名での書類 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xqoq-att/2r9852000002xqxc.pdf では,調べる指標は市町村ごとに 1 検体や 3 検体となっています。

復興庁の「放射線のホント」では確かにどれだけの量を検査するとは書いていません。私は最初はたとえば,出荷のロットごとに検査しているのだろうと誤解していました。それは私の勉強不足でもありますが,今回調べてはじめてどのような検査かわかりました。私の知る範囲でも通常の生産品に関しては,どれ位の流通量で誤りがあるのかを元に,たとえば 97.5 % の信頼区間でどうするかということを考えて抜き取り検査量を決め,さらに恣意が入らないようにどのような抜き取り方法をするかを決めるのが普通です。ところが,そのような通常の品質管理手法ではなく,市町村で1 つや 3 つという検査手法の指導がみつかりました。もっと詳しく知りたいのですが,私の知った限りでは,それぞれの検査して出荷できなくなる食品の Bq/kg の値は,日本は他の国などより確かに低い値です。ところが,検査をどれだけして,検査から漏れてしまう可能性をどれだけ減らすか? の部分は日本の方が漏れる可能性が高い値が採用されていました。これで本当に他の国よりも安全基準が厳しいと言えるのか,というのがおしどりさんの指摘です。この冊子の比較方法では,検査方法を含めた比較になっていないというのは,私のような素人には指摘されなければわかりません。

私が以前住んでいた宮城の仙台では,事故の後に信頼をとりもどすために自主的に上記のように,全部のロットからサンプルを抜き出して検査をしている生産者があるという話を聞いていました。このような売り手や市民の意識が高いということが,全てにあてはまるかは不明です。そのため,公的基準に頼る部分がでてくることになりますが,それを説明する冊子で書かれていない部分があるということを指摘されると,疑問が生じます。

この復興庁の「放射線のホント」については,私は書いてあること自体はそれなりの情報のように思いました。しかし,一方でこのように,書いていないことがあるというのが難しいと感じました。市民はより賢くないといけないとまた考える場面に出会いました。今回の講演でこういう情報を共有できたことはありがたいことでした。

福島第一の高濃度汚染水タンクの解体作業

現在,被曝の多い作業としては高濃度汚染水タンクの解体作業について紹介がありました。

2012 年に作ったタンクは急いで作ったこともあり,フランジ型 (ボルトでしめつける方式) の溶接をしていないものだったため,2013 年に継ぎ目から水漏れが発生していることが判明しました。そこで,その対策として 2015 年以降に溶接型の制作に変更になり,古いタンクからの水の入れ替えが必要になりました。 http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2018/12/3-1-2.pdf

この作業は全部の機械化はできず,最後にタンクの底に残った水を人間がモップでふきとるという作業があります。これがここでの最も被曝する作業とのことです。この作業を立案する際,労働者の安全性はどれだけ考えられたのかは不明ですが,被曝を避けられない形の作業になっています。そしてそこで海外からの労働者,海外技能実習者が働いていたことも問題となりました。このブログを書くにあたって調べてみるといくつかの記事がありました。たとえば https://mainichi.jp/articles/20180315/k00/00m/040/082000c がそうです。

これはベトナムで社会問題化し,ベトナム政府から日本政府に問い合わせがあったこともあり,日本では法律が改正され,2018 年から実習生には福島の除染作業はさせないことになったということです。しかし,技能実習制度は請負会社が扱っている場合があり,法律改正前の実態があまり把握されていません。実習生は経済的に立場が弱い場合もあり,やめようにも違約金が高かったりという問題もあるようです。今回発覚したのは,労働組合に助けを求めたケースでした。そのように助けを求めなかったケースなども調査が必要と感じました。この調査をせず,日本が安心して働ける場所かどうかわからないということになれば,今後の労働者確保にも問題が出ることでしょう。

2019-02-06 汚染水タンクの解体作業
2019-02-06 汚染水タンクの解体作業

農家の放射線健康管理について

講演では日本の法律では,40000 bq/m^2 以上の場所は放射線管理区域とされていて,事業者が健康管理の義務を負うと説明がありました。(ただ,筆者が知人に指摘されて調べたところ,これは医療法管理区域で,おそらく外部放射線についての実効線量が 3 ヶ月あたり 1.3 mSv の放射線管理区域のことだと思います。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E7%AE%A1%E7%90%86%E5%8C%BA%E5%9F%9F)

農家の場合,農地と住居は除汚されてそれ以下になっている場合がありますが,自宅から農地までの間に放射線管理区域に相当する地域がある場合があります。管理区域の設定も原子力発電所や病院などを想定していて,このように広域に放射性物質が拡散してしまった場合を法が想定していないようです。http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-05-03

このような線量としては管理区域の基準に該当してしまう場所のある農家が市などに問い合わせをしたところ,農家は自営業であり,この法律は適用されず。管理責任は自分にあるとの回答でした。しかし,責任は農家にあると言われても,実際問題としてそれでは困るでしょう。

それに関連するものとして,2016 年の 11 月 11 日に農作業における放射線対策と健康講座が,福島県川俣町で行なわれました。

探した所,以下から資料がダウンロードできます。https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/259689.pdf

受講者の方から作業や汚染地域で気をつけることに関しての質問がでたようですが,ほこりは息を止めるなどできるだけ吸わないようにする。作業後には着替えをしてほこりを家に持ちこまないようにする。との回答にがっかりされたかたも多かったそうです。ただ,筆者はこの説明会はある意味正直である気もします。既に汚染されてしまった地域で他に有効な対策が不明だからです。本来は,そこに帰還するしか選択肢のなかった方々にはどうすればいいのかという議論が必要なのではないかと思いました。あるいはこのような放射線の問題が回避できない状況で,なぜ制度として帰還できるような判断が下されたことに対する議論はどうだったのでしょうか。このパンフレットには放射性物質の入ったほこりをあびたらどうするかなどの対策で,服を洗う,マスクをするというようなもので,会場からはそこに疑問の声もありましたが,私は一方でその場の人たちに役場の人たちは他に説明ができないのではないかと思いました。私はこの役場の人たちがなぜこのような説明をしなくてはならないような状況になっているのかを疑問に思いました。

これに対しては被曝に関する健康問題に対して対策をとってほしい人たちが市や国と交渉を始めたということでした。

私はこのパンフレットや説明会でもまた,問題はここで議論されていないことや,このパンフレットに書かれていないことのように思いました。そもそもなぜ,その土地にいるというだけでその人たちが放射性物質と共存しなくてはいけないのでしょう。その人たちが自分達の土地を放射性物質で汚染して欲しいとお願いしたわけではないはずです。放射性物質と共存したくてしているのでなければ,そうなってしまった原因こそが問題です。洗濯をしましょうというのは対処法にすぎず,それは確かに現状ではそういうことしかできないかもしれません。しかし,ここではもっと大きな問題が見えなくなっているように思いました。