最終処分の話をしようや (6): 最終処分の資金はどうなっているのか

前回は最終処分の方法についてみてきました.放射性廃棄物を処理するのは簡単ではなく,費用がかかります.その費用はどのようになっているのかが今回のお話です.

最終処分の資金

最終処分の資金は,国にもよりますが,原発を有する電力会社が徴収した電力料金からバックエンド資金として積み立てています.利用者負担原則にしたがって,原発で発電された電気を使用した者がそれによって発生する放射性廃棄物と老朽化して使えなくなった原発を処分するために必要な資金を負担します.

ドイツの場合にはバックエンド資金は電力会社が全体で300-360億ユーロを積みたてています.ドイツが世界で最もバックエンド資金を積み立てていると見られますが,それとてそれで足りるという保障はまったくありません.

日本でもバックエンド資金が積み立てられていますが,日本の場合は永久に核燃料サイクルが機能するとの前提で,最終的に残る使用済み(MOX)燃料を処分する資金は含まれていません.

いずれにせよ,積み立てられた資金が不足し,原発を使用しない世代にその負担を押し付けることになるのは間違いありません.

最終処分状況

高レベル放射性廃棄物の最終処分を実際に行なっているところは世界でもまだありません.現在フィンランドのオンカロで建設中,2020年稼動開始予定の最終処分場がおそらく世界最初のものになると思われます.以下ではドイツと日本の現在の状況をまとめました.

ドイツの最終処分状況

低中レベル放射性廃棄物のドイツの最終処分については以下のようにいくつかの計画がありましたが,様々な問題を今後解決していかねばなりません.

  • ジャハト・コンラート
    • 地下1000メートル
    • 元鉄鉱石鉱山で,その上に粘土層
    • すでに運転許可も出され,2017年からの運用が計画されているが,まだ技術的な問題があり,運用開始が遅れる可能性が大きいと見られる.
  • モアスレーベン(旧東ドイツ)
    • 地下約500メートル,岩塩層
    • 元石灰採掘場,元武器製造の強制収容所
    • 水漏れ,落盤の危険がわかり,2001年閉鎖が決定
    • 2014/2015 閉鎖完了の予定
  • アッセ(旧西ドイツ)
    • 地下約 1000 メートル
    • 岩塩層の適性試験用として運用が開始された
    • 水漏れが判明,高レベル放射性廃棄物の破棄発見
    • 全ての放射性廃棄物を取り出す予定

高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関しては,ドイツはゴアレーベンで調査を開始していましたが,最終処分場の選定は白紙状態に戻されました.その後最終処分選定法が制定され,各界の代表を集めて最終処分場を選定するための委員会が設置されました.今後の予定は以下の通りです.

  • 2013年7月,最終処分場選出法が制定される
  • 最終処分庁が設置される
  • 2015年末までに最終処分場選出手順作成
  • 2035年まで運用開始予定 (勉強会後追記:委員会は現段階で,バックエン資金不足などを理由に,高レベル最終処分場の運用を2170年からにしなければならないとも発言しています.)

ゴアレーベンでは地下約1000メートルの岩塩層を調査してきましたが,今後どのように展開していくのかはまだ不明です.

ドイツでは当初永久貯蔵を計画していましたが,運用期間を 100 万年として,最初の 500 年間は放射性廃棄物を取り出す可能性を残すことに変更しました.取り出すというのは,その500年の間に,もしかしたら何らかの技術の進歩で放射性廃棄物の無害化が可能になる可能性を考えてのことです.

日本の最終処分状況

日本では,低レベルの放射性廃棄物については,六ヶ所村において最高地下100mの最終処分場が稼動中です.高レベルの放射性廃棄物のうち,使用済み核燃料そのものに関しては,現在ではまだめどの立っていない核燃料サイクルの確立が今後可能であることを仮定しており,再処理することが前提になっています.そのため,特に福島第一原発事故後使用済み核燃料の直接処分を求めるべきだとの議論が起こってきていますが,使用済み核燃料を直接最終処分することも,再処理後のガラス固化体を最終処分する具体的な計画はまだありません.

高レベルの放射性廃棄物のうち,ガラス固化体は2020年までに4万本が想定されています.これに関しては候補地を公募し,検討などは10数ヶ所ありましたが,公募の取り下げなどで消滅し,現在(2014年12月現在)未定です.(勉強会後追記:政府は公募を諦め,政府自らが選定することを決定 (2015年5月現在) [1])

日本では地層処理の研究施設の事例がいくつかあります.北海道の幌延(ほろのべ)町では,地下 350 メートル以上,堆積岩の地層処理について研究が行なわれています.岐阜県の瑞浪(みずなみ)市では,地下約 500メートルの花崗岩の地層処理について研究が行なわれています.

ただし日本では他の国に比較して,最終処分場として「水のない1万年を越えて安定した均一地層」というのは簡単ではありません.地震が頻繁に発生することや,地下水が豊富という最終処分には向いていない条件がそろっていることが問題になっています.

やまうちメモ

中低レベルの最終処分に関しては除染などで出た放射性廃棄物の最終処分場の検討が今後宮城県で行なわれます [2] (2014年12月の状況).


最終処分の大原則

最終処分の大原則は「国内処分,利用者負担」です.実際にエネルギーを使った人達が全ての処分の負担をすべきです.次の世代に負の遺産を残すべきではありません.しかし,今となってはそれは不可能です.

現在可能なこととしては,たとえば,自然エネルギーへの投資によって後の世代の負担を軽減することがあります.利用者の世代では原子力の負の遺産である廃炉や最終処分が完了しません.ですから,利用者の世代が次の世代のためにできるだけ多く自然エネルギーに投資して,その負担を軽減することを考えなければなりません.そうしなければ,世代間で負担が公平に分配されず,原発の利用者世代が残した負の遺産を次世代に押しつけ,次の世代の発展を阻害する可能性があります.

最終処分の現状に関するやまうちメモ

今回もまとめとして,私(やまうち)の個人的な感想をここに述べさせて頂きます.

原子力発電所は無限に稼動できるわけではなく,廃炉がやがて必要になり,そして最終処分が必要です.核燃料サイクルは40年以上の年月と10兆円以上の予算を使った現在でもまだだめどが立っておらず [3],これが前提の国策は考え直すべき時点に来ているのではないかと私は感じます.世界の他でもこの方法は撤退が続いています.たとえ燃料が再処理できたとしても,再処理の工程で高レベル放射性廃棄物は発生し,廃棄物はガラス固化体として増え続けています(電気事業連合会の資料 [4] より).ということは,廃炉と最終処分という負の遺産が将来に残ることは残念ながら避けられません.

ここでは利用者負担の原則ということを書きましたが,そうする理由は将来の発展のためです.利用者負担の原則を無視する考えもあるでしょう.自分がよければ,子孫や国が将来滅ぶのはかまわないという考えです.民主主義でそう判断することは可能です.しかし,それはいいのでしょうか? 借金を重ねる政策を民主主義で選択し,後に借金を返す時には皆で投票して借金を返したくないから,他の人に負担してもらおうと決めることもできます.民主主義的に決めることはできても,それで済むわけはありません.たとえば,景気を良くすると決めることと,景気が実際に良くなることは全然別のことだからです.明日から 1 + 1 = 3である.1 + 1 = 2 は禁止する.と投票で決めることはできます.しかしどんな決めかたであろうと,決めたことと,現実とは基本的には別のものです.責任をとらないと決めることはできます.しかし,現実はどうか.世界では責任をとらない人は信頼を失い,資本主義では信頼のない人には金はまわってこなくなります.つけがあれば,誰かがつけを払わねばならない.他人はそれを引き受けたくない.それを後世にまわそうとすれば,そのような人々の社会は後に行くほど弱くなることでしょう.利用者負担の原則を守る意味ということは少し考えても良いと思います.

利用者負担の1つである日本のバックエンド資金については,あまり情報がみつかりません.ドイツの積立てを300億ユーロとして本日(2015-7-3)では 1 ユーロ136 円なので,およそドイツにはバックエンド資金は4兆円があり,それで不足と考えられています.この記事[5]によると,日本の電力産業には廃炉費用として1兆4800億円の積立があるとあります.ただドイツの金額はバックエンド資金なので廃炉費用のみではありません.日本のこの金額が廃炉費用のみならば,バックエンドとしてはどれだけの積立があるのかが興味あります.ただ,金額を一概に比較することもできません.というのも現時点では日本の原子炉の数はドイツの2倍以上あるからです.また,日本で不足分を補うために廃炉後も積立てるということですが,廃炉の資金を廃炉後に積みたてるというのは原子炉がない状態で積立てることになります.つまり,原子力で生み出される電気では原子力にかかる費用がまかなえないので,それを水力や火力,あるいは太陽光に転嫁するという意味だと思います.利用者の意見を聞かずに,利用者負担にはせず,利用者の子孫に強制的に負担させることになるのは,どうも納得がいきません.「便利なのものがあるから使ってみて下さい,安くしておきます.」と言い,後で,「借金はあなたのお子さんにつけておきました.」というのは納得いかないです.特にその借金を背負わされる子は納得がいかないのではないでしょうか.バックエンド資金については今後も情報に気をつけたいと思っています.

私個人の意見ですが,日本の将来の発展を阻害する古いシステムの一時的な延命への投資は理解に苦しみます.短期的に多少のリターンがあるとしても,長期的に負となるものは,結果的に国家を衰弱させることが予想できるからです.負の遺産は可能な限り早めに清算してしまうのが良いと思います.

また,原子力発電所には安全保障における負の面もあります.たとえば,アメリカでの原子力発電所計画が躊躇すべき理由としてコストだけではなく,テロによるリスクが大きいという議論があります[6].この議論では,原子力発電所は国土を失なわせる効率的な攻撃目標であり,太陽光や風力などの自然エネルギーの安全性というのは,テロや戦争に対しても強いという議論です.私個人ではそういうリスクを数値としては評価できませんが,他の国で評価の進んでいるこのようなリスクも想定するべきではないでしょうか.

私達の欲しい未来とは何か,子孫達にどこまで負の遺産を作り続けるのか.私達の未来に何ができるのか今後も考えていきたいと思います.そして持続的な発展が私達の未来にあることを願ってやみません.

次回

今回で最終処分についての勉強会でのお話は終わりです.このお話を読むにあたって,いくつかの専門用語がでてきました.私自身,この勉強会に参加する前は,ベクレルとかシーベルトとかいう単位は報道などで聞いたことがあるけれどもどう違うのかよくわからない.ということもあり,このような用語や放射能とはそもそもどういうものなのか,ということを私自身が理解した形でもう少し説明したいと思います.そうすると報道などでどうして違う単位が使われているのかなどが少しわかってくるのではと思います.ですから次回は付録となります.

後記: 2015-6-26(Fri) 経済産業省(宮沢洋一経済産業大臣)は「核燃料サイクル事業」継続策を検討する作業部会の設置を了承しました.

参考文献

  1. 朝日新聞, 国主導で原発ごみ処分地選定、「有望地」提示 閣議決定 (2015-5-22), http://www.asahi.com/articles/ASH5Q335KH5QULBJ002.html
  2. 河北新報, 宮城県知事,詳細調査受け入れ 最終処分場 2014-8-5, http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201408/20140805_11016.html, (Online; accessed 2014-12-22)
  3. 東京新聞, 45年で10兆円投入.核燃サイクル事業めどなく, http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2012010502100003.html, (Online; accessed 2014-10-04)
  4. 電気事業連合会 (The Federation of Electric Power Companies of Japan), 原子力発電について(Nuclear): ガラス固化体(Vitrified radioactive waste), http://www.fepc.or.jp/nuclear/haikibutsu/high_level/glass/, 2014, (Online; accessed 2014-12-21(Sun))
  5. 西日本新聞, 原発解体費4割不足 廃炉後も電気料金で穴埋め 電力9社積立金調査, http://qbiz.jp/article/48036/1/ (Online; accessed 2015-7-3)
  6. Amory Lovins, A 40-year plan for energy, TEDSalon NY2012, http://www.ted.com/talks/amory_lovins_a_50_year_plan_for_energy, (Online; accessed 2014-12-22)
  7. 朝日,原発回帰 再稼働を問う:4核燃サイクル、再開にらむ,http://digital.asahi.com/articles/DA3S11852879.html

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