電力供給の市民表決 Volksentscheid

volksentscheid2この日曜日に、ベルリンでは電力供給を電力会社から市民組織に移行させるか否かの選挙がありました。この選挙が成功すれば、今まで電力会社が牛耳っていた電力に関するすべてのプロセス(発電方法から組織としての管理まで)を市民が参加して決められる上に、100%再生可能なエネルギーをフェアに配分できるということで、私も非常に期待していました。
しかし・・・残念ながら選挙は失敗してしまい、ベルリン独自のエコなエネルギーの夢は消えてしまいました。それでも、今回の選挙から学ぶこと、得られたことはたくさんあると思うので、今回はそれについて書いてみたいと思います。

まず、こういう政治参加の形態があるということ自体、私はすごいと思いました。
今回のような選挙のことをドイツ語ではVolksentscheidといい、日本語だと住民(国民)表決、レファレンダムなどというようですが、ピッタリ来る日本語訳が思い浮かびません。そもそも、こういう形の政治参加は日本にはない、少なくとも一般市民の日常生活のなかで起こるイベントとしては稀なのではないかと思います。今回の選挙はベルリン市だけで行われたものなので、便宜上ここでは市民表決という言葉を使います。

この市民表決が行われるために、まずVolksbegehren(国民請願/発案)というのがこの夏にありました。決められた期間中に署名を集めるもので、私達が参加した環境フェスティバルでも多くの有志たちが署名を募っていました。結果としては22万8000人分の有効署名が集まり、今回の市民表決にこぎつけました。
この運動のイニシアチブを取っていたのは、Berliner Energietisch(Tisch「机」は話し合いというような意味合いでしょうが、訳しづらいのでここではEnergietischとしておきます)という、主に環境系の団体が集まった組織で、ベルリン市の野党政党である、緑の党、左派党、海賊党も参加していました。他にも、賃借人保護団体(日本語にするとなんだかヘンですねMietervereinのことです)や労働組合系の団体も参加リストに名を連ねています。
通常の選挙では細かい野党に分かれてしまいがちな「左」な人々が、今回は団結して運動を起こした、それに多くの市民が有志として参加したのは、画期的なことだったかもしれません。どことなく手作り感の漂う今回の選挙に、民主主義の原点を見たような気がしました。

今回の選挙で私が個人的に感銘を受けたのは、「電力を市民の手に取り戻すんだ」という、理想論にしか聞こえないようなことを本気で要求していく人々の存在と彼らのバイタリティーです。Energietischは電気を自治体が供給する際の7つの良い理由として次のことを挙げています。今となっては墓標を見るようで悲しいのですが、せっかくなので挙げておきます。

1. Daseinsvorsorge gehört in öffentliche Hand
Die Energieversorgung zählt zur Daseinsvorsorge der Bevölkerung. In der Hand großer Konzerne orientiert sich ihre Ausgestaltung mehr an deren Profitinteressen und weniger am Interesse der BerlinerInnen.

2. 100 Prozent ökologische Energie
Die Zeiten von Kohle und Atomstrom sind vorbei! Die Berliner Stadtwerke setzen auf dezentrale, erneuerbare Energieanlagen in der Region Berlin-Brandenburg. Ziel ist Berlin mit 100 Prozent echtem Ökostrom zu versorgen.

3. Erwirtschaftetes Geld bleibt in Berlin
Der Rückkauf der Netze lohnt sich! Berlin profitiert langfristig von den sicheren Einnahmen. Und das erwirtschaftete Geld bleibt in unserer Region, statt  in die  Konzernzentrale von Vattenfall zu fließen.

4. Energieversorgung demokratisch mitgestalten
Die BürgerInnen Berlins sollen sich an der Gestaltung ihrer Energieversorgung beteiligen können. Neben der Direktwahl von Teilen des Verwaltungsrates sind weitgehende  Mitbestimmmungsrechte wie z.B ein Initiativrecht vorgesehen.

5. Energieverbrauch senken
Energieeinsparungen und -effizienz leisten einen wichtigen Beitrag zum Klimaschutz. Berlineigene Stadtwerke unterstützen dies gezielt und sorgen so für eine niedrigere Energierechnung.

6. Energiewende sozial gestalten
Unsere Stadtwerke sorgen für eine sozialverträgliche Energiewende. Einkommensschwache Haushalte werden gezielt beraten sowie die Anschaffung energiesparender Haushaltsgeräte gefördert. Auch die energetische Gebäudesanierung muss sozialen Belangen genügen.

7. Transparenz statt Geheimverträge
Für Stadtwerke und Netzgesellschaft gelten klare Transparenzvorgaben. Wichtige Unterlagen werden im Internet veröffentlicht. Alle erhalten Einblick in die Geschäftspolitik, so dass z.B. die Preisbildung von Stromtarifen  nachvollziehbar wird.

ものすごく大雑把にまとめると、
「電気は企業が儲けるためにあるんじゃない、市民が納得できるエコでフェアな電力供給をしよう」
ということ。そのまっとうさ、その愚直とも思える正論ぶりに私は胸が熱くなります(笑)。こういうことを大真面目に語って実行する大人がいなければ、社会はどんどんすれて、殺伐としていくことでしょう。
脱原発を求めると、そんなのは理想論だとか、現実には難しいんだとか、そういう批判が飛んできますが、理想を語ること自体、本当はとても大切なことだと思います。なぜなら、理想は出発点ではなく努力する先にあるもので、それがなければ行動を起こすことそのものがナンセンスになってしまうからです。理想がどこまで現実のものになるかは行動を起こしてみないとわからないし、理想があるから努力ができるのではないかと思います。どうせ無理だと最初から諦めたり、低い目標を掲げるのではなく、最終的にこうなって欲しい、本来こうあるべきなんだ、というヴィジョンを堂々と掲げたEnergietischに私は共感しました。

今回の選挙は結果的には不成功に終わったわけですが、その理由を考えることは、こうした運動を起こしていく際の良いヒントになると思います。

選挙が失敗した直接の理由は投票率の低さです。有権者の29.1%しか投票にいかず、賛成票を投じたのが有権者全体の24.1%と、必要な25%の賛成票にわずかながら足りませんでした。一方で、投票した人の83%は賛成票を投じたわけで、Energietischに賛同する人が多かったことを示しています。もし、もう少し投票率が高ければ、選挙は成功していたことでしょう。

投票率が低くなるのではないかという懸念は以前からあって、そこには、そもそも総選挙の時にやれるはずだったこの選挙を先に延ばした市政府の思惑が絡んでいます。総選挙の時に同時にやれば選挙の費用も少なくてすんだのに、わざわざ今回単独の選挙にしたのは、市政府がこの運動に反対するCDU(キリスト教民主同盟)とSPD(社会民主党)の連立政党だからです。ちなみに、総選挙と同じ日に似たような市民表決を行ったハンブルクではギリギリで賛成が通りました。

もう一つ市政府からの「いやがらせ」に近いものがあって、それはこの選挙の数日前に、市が独自の電力会社を作ることを決めた法案を出したことです。これはEnergietischの要求するものとはかけ離れた規模の小さいものですが、これが「すでに市は独自の電力供給をするつもりだからEnergietischがやろうとするのは無駄だ」という反対意見を強めることになりました。別の見方をすれば、そんなあてつけがましいことをするほどまでに、市政府は危機感を感じていたのでしょう。

そんな背景があるので、Energietischはバーンアウトしている場合ではありません。早速このすでにオフィシャルに決まっている市の電力会社の規模を大きくしようと画策しているようです。CDUやそれに追随するメディアはもう手がつけられないとしても、一応、中道左派ということになっているSPDの立場は微妙なので、選挙でこれだけの人がエコな電力供給に賛成したんだ、ということを武器にSPDと交渉をすることでしょう。
また、今回の選挙の明暗を分けた、有権者全体に占める賛成票の割合を設定することそのものに関しての議論も持ち上がっています。投票した人の圧倒的多数が賛成をしたのに、選挙に行かなかった人の意見を(事実上)反対票と同じ扱いにするのはいかがなものかと。選挙やその方法をめぐって、「民主主義とはなにか」という根本的な問いがなされる、それ自体がすでに民主主義の土壌がある表れのような気がします。
選挙権のない外国人としては傍観してるのが歯がゆいのですが、エコでフェアな電力を望むベルリン人の一人として、このテーマの今後の展開を見守っていきたいです。(KIKI)

「電力供給の市民表決 Volksentscheid」への1件のフィードバック

  1. shibaken

    拝見しました。
    投票率ではなくて、賛成の得票率が24.1%だったので無効になってしまいました。http://shibaken612.blogspot.de/

    投票率は29%でした。

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