インドへの原発輸出

KIKIのコラム第2回目は、私たちが環境フェスティバルでも取り上げていた、インドへの原発輸出について。

この5月の終わりに、インドのシン首相が日本を訪問しました。その際に、日本がインドに原発を売るための交渉が進むだろういうことで、事前に日本の反原発団体は抗議を示していました。このアクションに賛同してもらえないかという要請があり、Sayonara Nukes Berlinも229の団体とともに安倍首相とシン首相に宛てた要望書に名を連ねました。

少々長いので、この記事の終わりに安倍首相に宛てた要望書を載せておきます。インドにおける原子力の背景も分かりやすくまとめてあるので、ぜひ読んでみてください。

原発のない社会を望む私たちにとって、日本であろうが、インドであろうが、新しい原発を建てるというのは言語道断。ましてや、フクシマを経験し、原子力の恐ろしさを身をもって知っているはずの日本人がその技術を海外に売るというのは、とうてい受け入れられるものではありません。

今回の会談に先立って、2013年5月22日付けの毎日新聞に、日本の原発輸出に対する批判的な記事が出ています。「相手国の民主化ブレーキも 恥ずかしいぞ原発輸出 エコノミックアニマルから「野獣」へ」というタイトルの特集記事で、モラルのない経済政策と原発輸出によって引き起こされるであろう、社会的、政治的、経済的なリスクを分かりやすく説明しています。
私はこのタイトルにある「恥ずかしいぞ」というところに共感しました。私は「恥の文化」を背負っているような奥ゆかしい日本人女性ではありませんが(?!)、今回のニュースを聞いて、本当に恥ずかしいなと思いました。日本という国はフクシマから何も学んでいないのか、フクシマの被災者に申し訳なくないのか、お金さえもうけられればなにをしてもいいのか、今さえ良ければいいのか。

中国をけん制するためにも、インドと手を組むことは日本にとって経済的、政治的に大事なことかもしれません。インドとのビジネスによって、日本の経済がよくなり、インドの人々も潤うのなら、それは大いに結構なことです。しかし、原発建設をあたかもインフラ整備の一環のごとく軽々しく考えるのは危険です。そうやって日本は戦後原発をつくり、気がつけば原子力の地雷原となってしまったのではありませんか。
原発は大事故さえ起きなければクリーンなエネルギーだ、などというのが全くの嘘であることは、みなさんももうご存知でしょう。原発は通常稼動をしている時も放射性物質を出して周りの環境や住民に被害を与え、作業員は常に被爆しています。原料のウランを採掘するところから、すでに信じがたい環境汚染と人権侵害を引き起こし、使い終わってからは、行き場のない危険な核のゴミを子孫や外国に押し付けるという始末。そんなものを、「Made in Japan」の名で売ってほしくありません。日本には「想定外」で大惨事になる原発より、もっと安全な、世界に誇れる技術や製品がほかにあるはずです。

ちなみに、インドには、事故を起こした会社にその責任を問える法律が存在するそうです。もし、日本の企業が作った原発で事故が起きたら、一企業が何とかできるレベルではない賠償を迫られることになるでしょう。そうなったら、日本政府は救援策として莫大な税金を投入するのでしょうか。それとも、今の政府といわゆる「原子力ムラ」がやっている、「フクシマを無かったことにする」と同じプロパガンダをインドでもやるのでしょうか。うまくロビー活動をして、法律を変えたり、抜け道を作ったりして責任逃れをするつもりかもしれませんね。

先の毎日新聞の記事には、たとえグレーゾーンであっても、もうければ良いという考えを『修羅の経済思想』と呼ぶ中央大学総合政策学部の保坂俊司教授(比較文明論)のコメントが載っています。
近江商人に由来する日本の伝統的な経済倫理思想を表す言葉は「三方善(よ)し」というものだそうです。経済活動は生産者、流通者、消費者それぞれが、自己の利益ばかりを優先せずに他者の立場で考えるという発想。そういう経済倫理というのは、どうやらもうなくなってしまっているようです。自己主張をすれば「自分勝手だ」と叩かれる日本で、なぜ「後は野となれ山となれ」の典型であるような原発を売るのが許されてしまうのでしょう。そこにあるのはやはりこの「修羅の経済思想」なのかもしれません。

日本が原発を売ろうとしているのはインドだけではありません。トルコ、アラブ首長国連邦は原発輸出の前提となる原子力協定に合意済み、サウジアラビアとは交渉中。イギリス、ベトナムとの間にもすでに協定があり、さらに東欧諸国、フィンランド、ブラジルあたりでも話し合いが進んでいるようです。

日本人という立場からすると、まずは日本国内の原発とフクシマをなんとかしなければいけないと思うのは当然ですが、じゃあ、日本から原発が消えればめでたし、めでたしか、と言えばそうではないでしょう。地球上のどこであっても、人々が放射能で苦しむことなど、もう終わりにしなければいけないのです。フクシマを経験した日本は、もっと言えば、ヒロシマ、ナガサキ、第五福竜丸の悲劇を経験した日本は、原子力の無い世界に向けて邁進していかなければいけないはずです。(文責:KIKI)

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日印原子力協力協定に向けた交渉停止を求める要望書
2013年5月27日
安倍晋三 総理大臣
インドのマンモハン・シン首相が、5月27日から日本を訪問する予定です。野田民主党政権のもと、シン首相は、2012年11月15日から来日予 定でしたが、衆議院解散により直前にキャンセルされました。予定される日印首脳会談での主要議題の一つは、日本からインドへの原発輸出を可能にする日印原 子力協定に向けた交渉の推進についてです。
インドは、核拡散防止条約(NPT)に加入しないまま、1974年にカナダから導入した原発技術を用いて核実験を行い、1998年には再度実験を強行しました。包括的核実験禁止条約(CTBT)にも加盟せず、「核保有国」であることを主張しています。
石油関連の資源エネルギーに乏しいインドは、核燃料サイクル開発に積極的であり、ウラン鉱山から再処理施設までほとんどすべてを所有しています。しかし、それらのウラン鉱山や核関連施設の周辺では、これまで多くの健康被害や人権侵害が報告されています。
過去2回のNPT未加入での核実験に対してアメリカに主導された国際社会は、非常に厳しい原子力関連貿易に関する規制を「原子力供給国グループ (NSG、48カ国加盟)によって課してきました。日本政府も規制を厳守し、インドに対して原子力協力を一貫して拒んできたところです。唯一の戦争被爆国 として、平和推進の立場、さらに「国民感情」からも対印協力はできないとしてきました。
ところが2000年代中期、低迷する国際原子力産業界に押されて、ブッシュ米政権は対印原子力協力に方針を転換、国際原子力機関(IAEA)、 NSGなどに「インド特例措置」を認めさせました。しかしNSGは、「国際社会としてインドへの原子力協力を容認した」のではなく、日本を含む「加盟国が 独自の方針で対応する」ことを認めただけです。
こうした国際社会の変化のなかでもインドは、今後は核実験をしないという約束をせず、IAEAによる核関連施設への査察(保障措置)を全面的には受け入れず、原発増設と核兵器の増産を進めています。
インドへの原発輸出が可能となった国際原子力産業界は、すでに大規模な原発施設を受注しています。これら各地での原発新増設計画に関しては、情報公開、住民への説明などが全く行われておらず、住民の訴えはことごとく無視され、しかし計画は強行されています。
これらインドでの原発施設増設には、東芝、日立、三菱重工などが、外国企業との合弁会社や外国子会社を用いて参入を進めています。それは日本から直接のインドの原子力関連への貿易、投資、技術移転ができないためです。
日本政府は、経済界の強い要求に応じて「成長戦略としてのインフラ輸出」の柱に原発輸出を掲げています。最有望の市場であるインドでの商機を失いたくないとの経済界の要求から、日本政府は原発輸出による経済成長、そして対印原子力協定の締結へ突き進んでいます。
2010年6月の民主党政権下において、インドとの原子力協定に向けた交渉開始が突然発表されました。その時、被爆地である広島と長崎をはじめ、全国から「核拡散防止よりビジネスを優先するのか」と激しい反対の声が上がり、多数の新聞メディアも反対を掲げました。
日印交渉は、日本側が「再度の核実験の場合には、協力を停止する」との条件を示し、インドが受け入れを拒絶したため、2010年11月に中断しま した。ところが、福島原発事故の渦中にありながら、野田首相は2011年12月のインド訪問での首脳会議において「交渉再開」を約束したのです。しかし、 国内での脱原発の動き、インドでの原発反対運動が強まるなか、交渉は停滞してきました。
インド側は、日本が示した条件の撤回、さらに協定推進を求め、日本を含む国際原子力産業界は強い圧力を続けています。
2012年12月就任後の安倍政権は、まさに「原発輸出」のトップセールスを進めています。それは、首相みずから各国訪問、原発売り込みを先導 し、トルコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦との原発輸出のための原子力協定締結に合意しました。また、既に原子力協定が発効したベトナムでは、原発建 設協力が進められています。
シン首相来日にあたり、あらためてさらに強いことばで日本政府を代表する首相に要求します。
インドとの原子力協定は、戦争被爆国として国際平和の実現に努力してきた日本の誇り、さらに福島原発事故を発生させ、いまだに放射性物質を放出し 続ける日本の責任をかなぐり捨てるものです。福島原発では作業員が被曝を強いられ、数えきれない人々が苦しみの中での生活を余儀なくされている時に、懲り もせず原発を輸出しようとする動きを、私たちは絶対に許すことはできません。
日本政府に対して、インドとの原子力協定締結に向けたあらゆる試みの停止と、交渉停止を要求します。そして、世界への原発輸出を放棄し、福島原発事故からの教訓として、世界に原発の廃炉を主張していくべきです。
またインドでは、経済成長を求める産業界と大都市住民の電力需要だけが強調され、原発建設計画予定地、さらに南インドのクダンクラム、西インドの ジャイタルプールなどでは住民反対運動で治安部隊の弾圧により死者まで発生しています。核兵器と原発の非人道性から目をそらしたインド政府が、各地で原発 に反対する人々に対して激しい弾圧を行っていることは許せません。民衆の声を無視すること、情報を隠すこと、民主的な手続きをないがしろにすること、原発 推進機関と規制機関がなれあうことが、原発事故の遠因となるのです。
こうした住民たちの人権無視に荷担することは、日印友好の名を汚すものでしかありません。私たちは、首相がインド政府に対して、原発建設をめぐる住民への暴力的弾圧を一切やめるよう求めるべきだと考えます。
私たちは福島原発事故を経験し、破局的な原発事故が人々の命や自然に対して何をもたらすのかを、日々まざまざと見せつけられています。
シン首相には、広島と長崎を訪問して平和資料館を訪れ、被爆者の証言に耳を傾けるよう求めます。原発被災地である福島を訪れ、現在も4基の原発か ら放射性物質が放出され続ける中で、人々がどのように苦悶しつつ生きているのか、事故収束にあたる多数の労働者がどのような過酷な被曝環境の中で働いてい るのか、海や森や田畑で何が起きているのかを知る責任がインド首相にはあります。
チェルノブイリ原発事故と福島原発事故は、原子力発電所が人間の安全で平和な生活を破壊し、民主主義とは相いれないものあることを示しました。福島事故を経験した日本の人々は、政府・産業界による原発輸出に強く反対します。
私たちは以下のことを要求します。
1. 日印原子力協力協定に向かういかなる話し合いも行わないでください。
1. 福島事故での経験から、危険な原子力発電所の輸出による「成長戦略」を放棄してください。
1.インド政府に対して、インド国内で原発に反対する人々への弾圧の即時停止と、クダンクラム原発の即時閉鎖を求めてください。

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(インドのシン首相に宛てた要望書の日本語と英語はこちらから)

参考
・毎日新聞 2013年05月22日 東京夕刊 特集ワイド:相手国の民主化ブレーキも 恥ずかしいぞ原発輸出 エコノミックアニマルから「野獣」へ http://mainichi.jp/feature/news/20130522dde012010007000c.html
・グリーンピース 2013年5月30日 「じつは原子炉メーカーが嫌がるインドへの原発輸出」http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/dblog/blog/45350/
・原子力資料情報室 日印両首相に対する「日印原子力協力協定に向けた交渉停止を求める要望書」 http://www.cnic.jp/5113

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