福島からの高校生と独日高校生交流会 2019

[:ja]2019年8月8日、日本のNGO団体アースウォーカーズによる、福島を伝え再生可能エネルギーを学ぶ福島・ドイツ高校生交流プロジェクトの一環で開催された独日高校生交流会に参加した。

会場はプレンツラウアーベルグ地区にあるギムナジウム
絆・ベルリンのフランク・ブローゼ会長

会場のギムナジウムの校長のあいさつの後、ベルリンのNPO団体、絆・ベルリンのブローゼ会長によって、津波の解説や、東北大震災の被災地で立ち上げた数々のプロジェクトの紹介がされた。

ジャーナリストのふくもとまさおさん

ベルリン在住のジャーナリストであるふくもとまさおさんからは、福島の原発事故後の避難指示区域の解除の基準として年間線量20mSv(*1)が限界値となったが、これは本来原発作業員などに適用される値で、帰還地域ではそれが子どもや妊婦など公衆一般に適用されており、さらに原発通常運転時の国際標準として年間1mSvが現在上限値となっているが、それもいずれ年間20mSvに引き上げられることを心配しているとのお話があった。

小玉さんが2019年3月に国道6号線の原発から2km界隈を走る車内で撮影された動画によると、測定値はおよそ0.6μSv/hから最高で1.8μSv/hを超えた。通常一般市民が立ち入りを許可される区域ではないが、一般車の通行が事実上可能となっている。

福島の高校生らの英語でのスピーチを前に、アースウォーカーズの代表理事である小玉さんから、農作物の放射性物質は震災直後はかなり高かったが、今では一部の山菜や魚以外からは、ほとんど検出されなくなり、それらも事前に検査され市場に出荷されにくくなっていること(*2)、9人の高校生の居住地が異なることからも原発事故当時からこれまでに身を置かれる状況や体験も異なることが説明された。

聖真さん

聖真さんは、東北大震災の当時7歳、保護者の迎えを待って小学校から帰宅する道すがらに見た、倒壊した家屋や市役所の様子を語った。およそ1年後に政府による除染活動が始まり、自宅の周りの放射線量は減少している。当時は外遊びを叱られる理由を理解できなかったが、やがて原子力による発電は危険であると認識し、クリーンエネルギーに関心を持つようになった。

崚真さん
崚真さん

崚真さんも震災当時7歳だった。祖父母の家に向かう車内で感じた東北大震災の恐怖を語った。福島の原発の事故を知り、他県に住む親戚の家におよそひと月ほど避難した。学校の再開後に配られたひとりひと箱のマスク、外遊びは禁止され、学校の窓が開くことはなかった。福島県のナンバープレートを付けた車が他県で嫌がらせを受けた話に悔しい思いを抱くも、旅行先では福島から来たということを告げるのがためらわれた。福島県産の食べ物は、市場に流通する前に検査がされるようになったため、ほかの土地のものよりむしろ安全になっていると思う。僕たちは放射線の使い方を身勝手に間違えた、節度を持って扱えば人命をも救う。将来は放射線技師になりたいと述べた。

菫さん

菫さんは8歳だった。家族みんなが自らの命を守ることに必死だった当時の状況を語る。まだ雪の降る季節の避難所の固い床で家族で身を寄せ合って寝た三日間は忘れられない。物資の限られる中、心身ともに疲弊した。8年を経て復興が進むが、まだ避難生活を送る人がたくさんいる。津波の被害を受けた一部の地域は、時が止まったように当時のままである。

華恵さんと、発表を励ます菫さん

華恵さんは、避難地域の浪江町に住んでいた。発表の最中、涙に言葉が詰まった。避難所では大人の弱さを見ることとなったと語る。衛生状況の悪さから体調を崩すなどつらかった避難所から、夏は暑く冬は寒すぎるという仮設住宅に移る。8年の月日は早かったが、この間に賠償金をもらっている、放射線を持ち込んでいる、避難先を出ていけなどのひどい言葉をあびてきた。親しい友人からは、ロッカーに死ねと書かれた。福島県は変わっていないと思う。浪江町に行くことがあるが、瓦礫はなくなるも居住者が激減し活気を失った町の様子から良い方向に向かっているとは思わないが、元の浪江町に戻したほうが良いと思うので行動していきたいと語った。

美悠さん

美悠さんは9歳だった。電力会社に勤めていたため呼び出しを受け発電所に駆け付けた家族の身を案じて眠れぬ夜を過ごした。原発の事故の影響で、大好きな外遊びが制限されていたが、8年を経て、次第に元の日常を取り戻しつつある様子を語った。原発はたくさんのエネルギーを生み出すものの事故が起きた時の被害の甚大さを知り、福島県のみならず、日本全国で再生可能エネルギーの発展を願っている。

愛由さん

愛由さんは7歳だった。津波の被害をそれほど受けない町にいたが、報道を見た時のその衝撃は大きかった。当時は原発の事故や放出された放射性物質による被害の深刻さがわからなかったが、原発の事故によって避難せざるを得なかった友人ができたことを境に、理解を深めるようになった。食品の安全も図られ、福島はゆっくり回復しつつあるが、かつての姿はない。悲劇的な事故が福島で二度と起こらないことを願っていると述べた。

真帆さん

真帆さんは7歳だった。震災直後は生活に必要なあらゆるものが手に入らなかったこと、また放射性物質による汚染のために、真夏であっても肌の露出を避けるため長袖や長ズボンで過ごし、様々な野外活動の制限を受けた。県内でも最も放射線の測定値の高い町に住んでいたため、級友の半分は引越を余儀なくされ、友人からは避難先でばい菌のように扱われたとの体験談を聞いた。除染が進み、学校給食から消えた福島県産の農産物も検査を重ねて戻ってきており、震災前の暮らしを取り戻しつつある。

颯人さん

颯人さんは7歳だった。原発の事故により、多くの人々が避難したが、避難所では動物が受け入れられなかったために、ペットが取り残され命を失ったりした。被災したペットの多くには新しい飼い主が見つかるも、まだ飼い主の見つかっていない動物もいる。また被災した犬のなかには訓練によって災害救助犬になった犬がいる、自らもドッグトレイナーになりたいという夢を語った。

里桜さん

里桜さんは、かつての記憶に涙をつのらせながら、原発の事故の影響から友人が避難したり、学校に通えなくなったりしたことがつらかったが、もっともつらく怒りが湧いたのは報道やネットの情報が適切ではなかったことだと述べ、メディアリテラシーに対する不信感を感じた。そのため、友人は避難先で、放射能が移るから近寄るな、福島に帰れなどの暴言をあびるいじめにあった。そうした中、世界中から届く支援や韓国や中国から届いた励ましの言葉に感動し、今度は自分が困っている世界中の人々を助けたいとその意欲を語った。

福島の原発事故を受けて、国内外で様々な議論の声が上がるなか、取り残されたままの現地の声もあるのではないか。私は、生活を変えることを余儀なくされた人々、当たり前に生きる権利を奪われる人々を思えば、原子力エネルギーを発電に利用することに反対する立場である。日本政府には、直ちに政策の過ちを認め、エネルギー政策の転換を求めたい。また私たちが身を守るために必要な正確な情報公開を望むと同時に、自らも正しい情報を習得して発信できるよう努めたい。

会場からは、震災や原発事故から心的外傷を負った子どもたちをケアする取り組みはなされているのかという質問の声が上がった。自治体や学校ごとに取り組みがなされるべきではあるかと思う。福島県のウェブサイトには、被災者への心のケアや派遣支援のマニュアルの紹介があり、そのほか子どもの育成企画や状況報告はされている。NPO法人で相馬フォローケアチームという有志による取り組み等があるが、外部からは福島県内の取り組みの全容を知るには至らなかった。

2013年から支援の調達状況の限り取り組まれてきたこの企画であるが、折に触れて高校生たちの経験が互いへの連帯感や学びの見聞を広める様子を見ることができた。帰国報告会は、8月18日10:00〜東京ボランティアセンター(飯田橋駅徒歩2分)、8月18日18:00〜福島市ダイユーエイトMAX4階アオウゼ研修室(福島駅徒歩6分)。また各年齢に応じて福島県内に居住する子どもたちの県外での保養など、多くの企画を手がけている。詳細はウェブサイトにて:アースウォーカーズ。

2019 福島・ドイツ高校生交流プロジェクト 帰国報告会: https://youtu.be/Wbjz4svIDlo @YouTube


*1:京都大学原子炉実験所の今中哲司さんによる記事を紹介したい。◇「20ミリシーベルト」と幻の安全・安心論 今中哲二 岩波「科学」2017年7月号 (岩波書店許諾)

*2: 福島県のウェブサイトでは県内の農産物をはじめとする各種放射線モニタリング検査の結果や詳細が公開されている。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/list280-889.html


高校生たちが各自作文し発表された内容については、全文から公平に抜粋するよう努めたもので、表現については発表のまま掲載する。

福島県をはじめとする各自治体の農産物の放射線検査とその安全性については、当団体が推奨するものではなく、各ご家庭の自主的な判断に任せるものとする。
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「福島からの高校生と独日高校生交流会 2019」への2件のフィードバック

  1. 小柳卓史

    報告ありがとうございました。生徒さんの一人一人の言葉にとても感動し共感しました。

  2. ピンバック: ドイツの再生可能エネルギーに学ぶ福島の高校生 2019 | Sayonara Nukes Berlin

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