おしどりマコ講演会 2019 報告 (2)

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子供の健康: 調査の検査結果数に関して

これは複雑なことになっています。おしどりさんの指摘した問題点をかいつまむと,

  • がんが見つかった場合でも福島のがん発症数に入らない場合がある。
  • 2012 年以降に生まれた子どもは調査対象ではない。

などにより,がんの発症数として報告されている数に入らないがんが存在することに注意が必要になるということです。数え方などは発表されていますが,単純にここでのがんの発症数は,素人が考えるような,「福島に当時いて現在がんを発症した患者の数」とは違うことに注意が必要です。おしどりさんの指摘はこれでは正確な患者の数が把握できないだけではなく,現在の方式では,上記の素人感覚に比較して患者の数が減るようになっていることも問題として指摘されていました。

これについてもう少し説明してみます。

福島県では,県民健康調査が行なわれています。これについては放射線医学県民健康管理センターのサイトが http://fukushima-mimamori.jp/ や,https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kojyosen.html にあります。

検査対象の子ども達は福島県に住んでいた事故当時 18 歳以下および 2011 年内に生まれた子ども達でその数は約 38 万人と考えられています。ここで甲状腺の検査は 20 歳を越えるまでは 2 年ごとに行うことになっています。(20 歳を越えた場合など,より詳しくは上記のサイトを参照) また,県外に移転した人も検査対象ではありますが,私の探した限りでは何らかの義務があるという記述がみつかりませんでした。この場合,年々検査する人数が減るという可能性もあります。

ここでの検査方法は上記のサイトにもありますが,一次検査と二次検査があります。一次検査では A1, A2, B などの判定結果がつけられます。これは,しこりなどの大きさの判定であり,この結果はそのまま手術が必要ながんであるかどうかとかいう基準ではないというおことわりがあります(http://fukushima-mimamori.jp/thyroid-examination/)。治療の判定は判定委員会によるということでした。検査と治療とは別になることは注意が必要です。

すると「県民健康調査での診断,がんとして治療を受けた人の人数」と,「がんとして治療を受けた人数」は実は一致しないことに注意が必要です。この制度に関してはどのような手続きかの発表はなされているのですが,検査で治療を受けた数だけを見ていると誤解を生む場合があります。

まずは,県立医大以外でのがんの手術は二巡目以降はここでの数に入らないことです。他県に移動してからがんがみつかり,手術した場合は福島県の数に入りません。これは実務的にその数を数えるのが難しいなどの理由があるようですが,手続き的な問題で解決可能なはずです。この問題は福島県に当時いて,後に県外に移動してしまい発症したものが含まれなくなってしまうことです。

2019-02-06 甲状腺ガンの検査と治療と数え方の違い
2019-02-06 甲状腺ガンの検査と治療と数え方の違い

この場合,原発と関係なく発症したかどうかなどの議論はあるにせよ,事故当時福島県にいたかどうかを追跡しておくような仕組みが必要です。そうでなければ,避難などで移住してしまうと,調査の対象者数そのものが減少するので,がんの数が減ったように見えてしまいます。すると,がんの発症率が下がったのか,人がいなくなったので減ったのかの区別がつきません。ただし,これに関しては行政側も不備があると考えているようで,実は対策があります。しかしそれには別の問題があるので,それは後に説明します。

もう一つの問題は,地元の医師ががんと判断した場合,二次検査まで行ったとしても,その治療が半年後になった場合には,やはりこの検査での結果としての数に入らないことです。例として,図 http://fukushima-mimamori.jp/thyroid-examination/images/img_inspection.png での診断基準で判断の A1 A2 相当とされた場合などで,しかし,半年後にはがんとして治療を受けた場合です。

確かにがんであっても検査からの治療ではないので,調査の数には入れないということになります。しかし,結局がんであったのに,福島県の調査のがんの数には入らないことになります。

また,甲状腺調査に関しては,ヨウ素 131 の半減期が 8 日程度ということから,2012 年以降に生まれた子ども達は検査対象ではありません。(チェルノブイリでは検査対象です。) 半減期は半分になる期間であり,ヨウ素 131 はバセドウ病などの治療に利用されることがあり,その場合予防策として影響ははっきりしていないとしても安全のために 6 ヶ月は妊娠を避ける必要があるというガイドラインがあります。(例: 腫瘍・免疫核医学研究会http://oncology.jsnm.org/files/pdf/thyroid-guideline_201408.pdf) すると妊娠までの 6 ヶ月,誕生まで 10 ヶ月などを考えると,少なくとも 2012年の子どもたちの調査は必要なのではないかという疑問があります。ここでもう一つの問題は,調べていないのであれば,チェルノブイリとの比較ができないことです。できないながら,チェルノブイリよりも子どものガンの発症率が低いという記事を拝見することがあります。このような情報では混乱が生じます。比較対象は何にするのかをそろえるのは困難があることも予想できますが,少なくともチェルノブイリと同等のデータを集める,できればそれ以上のデータを収集することはできないでしょうか。

また,これは危険を警鐘する側にも見られる問題ですが,発症数しか述べないという問題があります。確かにどれだけのガンが出たのか,それは気になる数です。しかし,被害の可能性を論じる場合,どれだけの人を検査したかに関係します。つまり調査人数が減れば,発症し,治療する人間もそれだけで減りますが,それは発症数だけではわかりません。また,検査する人数が増えて発症数が増えたから,それでガンになる可能性が高くなっているというわけではありません。発症数ばかり言う問題は,仮の話として,発症数を減らし,県民を安心させるために,「検査数を減らす`」ということにでもなれば,おかしなことになってしまいます。検査数,サンプル数が多い方が母集団の推定は正確になります。ですから,判断をする方も発症数ばかりに気をとられるのではなく,発症の可能性の分母の検査数にも注意を払うべきだと思います。発症数はわかりやすい数ですが,検査方法によって左右される数であることは注意すべきです。たとえば,検査数が減っているために発症数が年々減る場合があるとします。それか,病気になる可能性が減っているといういう判断をすれば誤ってしまいます。

このように調査の方法によって発症数が変動してしまいますが,調査の数をどう出すかを詳しく見ていくと,個人の健康を守り,また必要な補償などのためには,できるだけ網羅的な調査が必要であると私は思います。その観点からすれば現在の調査方法には改善の余地があると思います。

また,福島県立医大の持つ情報に関しては,福島県立医大の研究者のみが情報にアクセス可能であり,他大学の研究者にもアクセスはできないという話がありました。発表の場合には学内で倫理審査があり、県民の利益があるかの審査があり,県民に不安となるような情報は公開しないということも場合によっては可能ということでした。またこれらは情報公開対象でもありません。そうすると,甲状腺ガンのより正確な数は把握されている可能性はありますが,一般には知ることができないという状況です。

全国がん登録について

これまではがんの患者のデータは都道府県ごとでした。そのため,上記の移住によって治療場所が変わるとデータの重複などの問題がありました。また,福島の甲状腺検査には逆の問題があることを前節では指摘しました。

この問題は少なくとも第一の問題に関しては政府も正確な数字の把握ががんの治療に必要であるとして,すべての病院ががんの情報を提出するという仕組みが 2016 年にできています。それが全国がん登録です。この制度自体は超高齢化社会の死因原因の 1 位のがん対策を目的とするとあり,2013 年 12 月に「がん登録等の推進に関する法律」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%82%93%E7%99%BB%E9%8C%B2%E7%AD%89%E3%81%AE%E6%8E%A8%E9%80%B2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B によって成立し,2016 年に施行されています。

https://ganjoho.jp/reg_stat/can_reg/national/public/about.html

この制度によって福島にいた子ども達の甲状腺がんの状況「も」全国的に把握できる可能性があります。しかし,その情報は個人情報保護のために,行政が認めた研究者以外には非公開です。会場からは新聞社などのマスコミはアクセスできるのかとの質問がありましたが,おしどりさんはそれも非公開と回答でした。

もう一つ,後に知人から指摘がありました。それは全国がん登録が 2016 年から施行されたというタイミングです。このため,たとえ情報が公開されたとしても,事故前のデータはありません。ですから事故前後のデータの比較はできません。

OECD Nuclear Energy Agency の会議への参加報告

おしどりさんは,OECD Nuclear Energy Agency の会議へも参加し,取材をしています。これは原子力産業の会議です。会議参加者の中には,原子力産業のセールスの人たちもいてその人たちに取材ができたそうです。セールスとしては,フクシマ以前は「事故は起きない」ということを主に,フクシマ以降は,「起ってもあまり問題はない」というセールスを展開するような戦略を推奨するとのことです。特に事故の起こった地域の住民が自分で帰還し,住み続けることを決め、自ら除染することはモデルケースとなるので業界としては後押しするべきだという意見があったという報告でした。また,特に原爆を経験した日本が原発事故を大丈夫で問題ないとすることは業界にプラスになるという情報が共有されていたということでした。[:]

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