日本在住の漫画家ダビ・ナタナエルさんに聞く「核エネルギーと民主主義」

[:ja]福島の原発事故から5年、チェルノブイリの事故から30年の節目の今年、この2つの事故日である3月11日から4月26日までの7週間の間、ベルリンで「核エネルギーと民主主義」をテーマにProtestival2016を開催します。そこで様々な職業人の立場からいただいたテーマに沿ったインタビューを連載中。第五回目はドイツ出身で日本在住の漫画家ダビ・ナタナエルさんにお話を伺いました。

「民主主義は資本主義があると100%は成立しない。お金のある人は人の票も買うことができるじゃないですか。だからこのシステムをそろそろ考え直した方がいい」

ダビ 核エネルギーはとにかく最終処分場がないっていうことで完全にダメだと思っているけどね。最近もツイッターで面白い表現を見たけど、ちょうどクリスマスだったからイエスキリストが生まれてからまだ2千年しかたってないのに、今世にばらまいているものが2万年とか消えないって思うと、いかにすごいことかっていうことがわかるし、それはもうやめて再生可能エネルギーにした方がいいと思う。核は戦争のために悪用されることもあるかもしれない。そして命よりお金を大事にしているように感じられることが許せない。

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12月28日都内のカフェにて

―日本とドイツを比べると民主主義どうでしょう

ダビ ドイツも100%民主主義ではないと思いますけど、それを多くの人がわかっているところは違うと思う。民主主義は大多数の意見じゃなくて、小さなグループの意見も集めてそこからいかにみんなの意見を反映できるかっていうことだと思うけど、日本では多くの人がこれがいいって言うからこれにしなきゃいけないとか、みんなに従わなきゃいけないとか勘違いされることがよくあると思います。

―チェルノブイリを身近に経験しているドイツ。311の直後、ドイツ大使館は即座に日本国内のドイツ人に避難勧告を出し、多くのドイツ人は3日後には西に避難し、その後帰国しましたよね

ダビ 僕も3日後に一度ドイツに帰りました。ちょうど漫画の連載が始まったところで頭がいっぱいで帰りたくなかったし、地震のために半日街中をさまよいはしたけれど、テレビも持たず原発の事故のことは知らなかった。そこへ父から電話があって「原発が爆発したでしょう」とチケットを用意していて、望まれるままに帰国することに。でも自分だけ逃げるようですごい罪悪感があった。友だちにもし困った事があったらドイツに来てと言うと、みんなは「なに言ってるの」という反応だったので、当時はドイツと日本の報道の差を感じました。

―その後、多くの方はインターネットで情報を得たと言われていますがダビさんの周囲の方はどうでしたか

ダビ 一部はそうですね。人によってはすごく知識を得た友だちもいるし、逆に今でも何もなかったように思う友だちもいる。例えば僕は1年間ヴィーガン*¹をやっていて、最近それも原発関連?と言われて、関係ないのに僕はもうそういう人だと思われている。

―ドイツにはダビさんの様な考えや反原発を特別視する社会はありませんよね

ダビ そう、ドイツは脱原発を決めたというのもあるけれど、それが逆に普通の考えになってると思います。日本の友だちに怒られたこともある。自分が逃げたから痛み分けする気はないのかとか、食べて応援とか言われて、でもそれは違うと思った。誰でも自分を守るのは普通でしょう。

―SNSなどを利用してこれまでに積極的に原発を批判してきたダビさんと取り巻く環境の変化

ダビ 友だちの中の一部の人は理解してくれているだろうけど、何も言わない人もいる。あとはちょっとばかにされているのかも。ツイッターなどでは僕の漫画の読者はちょっと減った気がするし、逆に違うフォロワーがいっぱい増えた。自分の営業にとっては悪いことをしたのかもしれないけれど後悔はしていない。当時日本では得られなかったような情報を自分が訳して発信したことが誰かの役に立ったのは良かったと思う。そういう意味でまわりはちょっと変わったかもしれない。僕もそういう問題をもっと考えるようになりました。311の事故を受けるまで、原発については特に深く考えることもなく親世代から受け継いでただ悪い物だという意識だった。それをすごく勉強して発信するうちにネトウヨとかにも絡まれて、僕はブロックするのは嫌だからやり取りすることで、逆に自分の勉強にもなった。やっぱり反対意見も聞くようにする。でも時々ムカつくけどね(笑)

―民主主義だもんね!

ダビ そうそう(笑)以前に太陽光について、そのパネルを最終的にどう処分するかまだわかっていないと突っ込まれて、そうなんだ!考えたことなかったな、それじゃ原発とおなじだな、と思って調べたら当時2種類あるとわかって、ひとつはちゃんとリサイクルできて、もうひとつは安く作る代わりに燃やせば化学物質が出るなど問題があった。そんな風に自分のためにも勉強になった。

―5年目を迎えてダビさんのしていきたいことって

ダビ あります。もちろん新しい情報が出てきたときには発信したいと思う。でも今はそういうことが日常的になっているじゃないですか。食べ物に気を付けたい人は気を付けているし、そうでない人はそうしないだけだし、だから以前よりは発信量は減っていると思うけど、これからも力は入れていきたい。後は外国人から見た311の事を漫画にしようと、あの時からずっと思ってる。

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本当はひとりひとりの行動でいろいろ変えられると言うことに気付いてほしい

ダビ あの日からみんなそうだと思うけれど、けっこう人生が変わった気がします。ドイツ語でWachgerüttelt werden (揺さぶられて目覚める) という言葉がある。考えなきゃいけない事がいっぱいあったから今までよりずっと勉強したし、世の中どうなっているかっていうことをすごい調べた。そのまま流されたくないなと思った。311は僕の人生ではすごく大きな変わり目。テレビとかだけじゃなくて、世の中がどうなっているかを自分で調べて、いろいろ読んで、いろいろな人の意見を聞いて自分で考えた方がいいと思う。たぶん自分の行動を変えなくちゃいけないと思うんですよね。原発だけじゃなくっていろいろなこと。多くの人は政治家に任せたい、それが仕事でしょって思っているんだけど、本当はひとりひとりの行動でいろいろ変えられるということに気付いてほしいと思います。

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ダビ・ナタナエル:(DAVi NATHANAEL、1985年11月21日-)日本在住ドイツ人漫画家。東京コミュニケーションアート専門学校の卒業と同時にプロの漫画家として集英社の月刊誌「ココハナ」(旧コーラス)にて連載デビュー。代表作の「ボクは東京でリアル」で自分の恋愛事情を赤裸々に描き、単行本化。2014年から商業誌で描かせてもらえないような、自由な表現ができることからAmazon Kindleでセルフパブリッシュに挑戦。東京コミュニケーションアート専門学校にて漫画の講師として指導も行っている。「ニッポンを発信する外国人たち」(内藤孝宏著)でも12人の外国人のひとりとして体験談を掲載。
ダビ・ナタナエル公式HP http://davinathanael.wix.com/mangaka

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補足)
*¹ヴィーガン(ヴィーガニズム、英veganism、独Veganismus)とは、動物製品を使用しない生活様式。卵、牛乳、ゼラチン食品も食べない完全菜食主義者を意味する。はちみつなどの使用を含めてヴィーガンの中にも様々な思想や見解がある。

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Protestival 2016[:]

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