ドキュメンタリー映画   「サイレントフォールアウト」(2023年、伊東英朗監督、    英語版ドイツ語字幕)         ドイツ上映会ツアー報告

2025年10月1日から9日にかけて、私がドイツ語字幕をつけ、ドイツ国内でのプロモーションを引き受けた伊東英朗監督のドキュメンタリー映画「サイレントフォールアウト」が各地で上映された。本当は、伊東監督がフランスの反核ネットワーク・レゾーの招きでフランスに来ることになっていたのに合わせ、ドイツにも招いて集中してドイツでの監督トーク付き上映会ツアーを行う予定で計画していたのだが、伊東監督が病気でドクターストップがかかったため、伊東監督の代わりに私だけが赴いて上映会が開かれた。ツアーは以下のスケジュールで行われた。

10月1日:Braunschweig市内Universum映画館

主催:Braunschweig市福音教会アカデミー/ブラウンシュヴァイク市日独協会

10月4日:Kaiserslautern市内Union映画館

主催:Friedensinitiative Westpfalz

10月5日:ハノーファー市ラッシュ広場映画館

主催:ハノーファー独日協会

10月6日:ダルムシュタット市レックス映画館

主催:ダルムシュタット平和フォーラム

10月7日および9日:ベルリン国際ウラン映画祭オープニング、ツァイスプラネタリウム内映画館およびベルリン国際ウラン映画祭第3日目夜のプログラム、ACUD映画館

主催:Sayonara Nukes Berlin、ICAN ドイツ、IPPNWドイツ支部、ICBUW、IALANA、平和の鐘協会、ベルリン国際ウラン映画祭

上記の上映会ツアーでは私が監督代理・ドイツ語字幕翻訳者・プロモーションをした者として話をし、会場の質問にも答えたが、そのほかにもドルトムント、ボッフム、ツェレでも上映会が行われ、それぞれ主催者により伊東監督にも寄付が寄せられた。

ここでは私が参加した上映会の全体的な報告をしたい。

私はプロモーションに当たり、ドイツ語字幕付きの映画トレイラーのリンクと一緒に、あらすじと伊東監督のプロフィールなどを付けたフライヤーとともに、ヒロシマ・ナガサキ原爆投下から80年の今年に、ぜひこの映画を上映して、核兵器とはどういうものなのかを議論する場を作ってほしい、という呼びかけを知り合いの団体に回したり、SNSでも拡散していた。それでいくつかの団体が上映会を申し出てくれて、上映会が実現したのだった。

例えば、Kaiserslauternカイザースラウテルンはサッカーファンには馴染みの深い名前だが、それ以外には特別に大きな都市ではない。しかし、ここから約9.5㎞ほどのところにヨーロッパ最大のアメリカ空軍基地ラムシュタインがあり、ヨーロッパに駐留する米空軍部隊を統轄するアメリカ空軍司令部、そしてNATO軍の航空部隊を統轄する連合航空軍司令部もある。イラクやアフガニスタンなどに航空部隊を送り込む司令が出されたのはここからだ。そのこともあって、ここでの平和運動は長い。上映会を主催してくれた平和イニシアチブも歴史が長く、ずっと軍縮、核兵器反対、武器輸出反対の運動を続けてきたグループだ。彼らは毎年一度、自分たちのテーマに合う映画を見つけては、町のアートハウスシネマであるウニオン映画館の協力を得て、上映会をしているという。今年はヒロシマ・ナガサキ原爆投下から80年ということがあったので、ぜひ核兵器に関する映画を上映したいと思っていたところ、サイレントフォールアウトの話を聞いて、私に連絡してくれたのだった。

主催者グループの一人で司会をしてくれた人は、職業が歯医者だそうで、あれだけ乳歯を集めて検査した、という事実が感慨無量だったそうだ。

ハノーファー市の独日協会では、よそものネットのメンバーでもある田口理穂さんが理事を務めており、彼女がもう一人のメンバーで「ヒロシマ連盟」という平和運動にも携わっていて独日協会のメンバーでもあるドイツ人女性と二人で、このサイレントフォールアウトをぜひハノーファーでも上映したいと努力してくれたため、この上映会が実現した。ラッシュ広場映画館というのはハノーファー中央駅すぐそばにあるアートハウスシネマで、この日曜日のマチネで上映してくれることになった。

ハノーファーで参加してくれた男性の一人が話してくれたことが印象に残った。チェルノブイリ事故発生した時、自分のこどもはまだ小さかった。事故後、近所の公園が軒並み閉鎖され、しばらく外で遊ばせなかったことを思い出したが、あの時は、ある程度日にちが経つと「もう大丈夫」というような「解除」が州知事から出されて、公演は解放され、子どもたちがまた皆、何もなかったように普通に遊ぶようになったが、もしかしたらあの時の「大丈夫」の根拠はなかったのかもしれない、とその男性は語ってくれたのだった。

ハノーファー市独日協会のメンバーで、ヒロシマ連盟という組織にも加わって平和運動をしているという女性は、来年1月末に核兵器禁止条約発効(2021年1月22日)5年を記念したイベントを予定しているので、ここでもぜひこの映画をもう一度ハノーファーのIPPNWグループと一緒に上映したいとも申し出てくれた。

ダルムシュタット平和フォーラムには、Regina Hagenという反核運動ベテランの女性がいて、この人が中心になって今年、ヒロシマ・ナガサキ原爆投下から80年を記念して、核問題を扱う映画を4作、地元のアートハウス映画館で上映し、その他にも展示会や講演会、ディスカッションなどの一連のプログラムを企画した。今回上映された4作の最後の作品がサイレント・フォールアウトだが、その他に上映された作品は「ザ・デイ・アフター」「太陽が落ちた日」「風が吹くとき(アニメ版)」だ。

伊東監督は、この映画を特にアメリカ人に見せて、放射能被害は遠い国の出来事ではなく、アメリカ人も同じように被害者なのだ、ということを伝えたいために制作した、と語っているが、実際にアメリカでの反応はどうだったのか、という質問が出た。ドイツでもチェルノブイリ原発事故後、フォールアウトが風に乗ってことにドイツ南部を襲って土壌を汚染したので、その時の影響でバイエルン地方では例えば、今でも野生のイノシシやキノコは放射能汚染されている。アメリカ、イギリス、フランス、ソ連の核実験の影響、チェルノブイリ、フクシマなどの原発事故の影響、核のゴミ、原発・核施設周辺で出される放射線などがずっと地球全体を汚染していて、汚染されていない場所はどこにもない、というマンガノ氏の映画の最後の言葉が会場で繰り返された。

また、ケネディ大統領は、イギリス、ソ連の間で部分的核実験禁止条約(PTBT)を1963年にモスクワで調印したが、この条約では、地下を除く大気圏内、水中、宇宙空間での核実験を禁止するものの、地下核実験は禁止されなかったこと、そして1996年にやっと、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間での核兵器の核実験による爆発、その他の核爆発を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)が国際連合総会によって採択されて翌年1997年に批准されたが、いまだに核兵器保有国を含む44か国が批准していないため、未発効だ。従ってアメリカも、イスラエル、イラン、エジプト、中国が署名のみで批准していないし、朝鮮、インド、パキスタンは署名すらしていない。核爆発を伴わない未臨界核実験はこの条約の対象ではないため、アメリカとロシアで臨界前核実験は繰り返し行われているし、インド、パキスタン、朝鮮はそれから核実験を行っている。そして今、第二次トランプ政権のもとで、再び核実験を行うという議論がされているようだ。またトランプ政権下で、このサイレントフォールアウトに出てきたような風向きの情報やその他のフォールアウトの情報などがどんどんインターネットで見られなくなってしまうのではないかという懸念が増加した、というコメントも出た。

7日と9日はベルリンでの国際ウラン映画祭という場を得て、私のイニシアチブでICAN、IPPNW、ICBUW、IALANA、平和の鐘協会とSNB主催で2回も上映会を実現することができた。7日はウラン映画祭のオープニング映画としてツァイスプラネタリウムの映画会場で、そして9日はACUD映画館で上映された。7日は私が伊東監督のメッセージを伝えたり映画の裏話などを話し、会場からの質問にも答えたが、9日はICANドイツの理事の一人であるヤニーナ・リューター氏、ICBUWの代表であるマンフレッド・モアー氏、そして私が、国際ピースビューローのルーカス・ヴィルル氏の司会でパネルディスカッションを行った。

ここでのディスカッションでは特に、この映画の中でケネディ大統領が発表する部分的核実験禁止条約(PTBT)と、包括的核実験禁止条約(CTBT)、それから2021年に発効した核兵器禁止条約について触れた。部分的核実験禁止条約は、正式名を日本語で「大気圏内、宇宙空間および水中における核兵器実験を禁止する条約」と言い、映画の中でケネディが語るように、1963年にモスクワで正式調印され(アメリカ合衆国、イギリス、ソ連)、それから108か国が調印して、発効した。しかし中国、フランスを含む十数か国が調印しなかったこと、それから地下での核実験が除外されていた(のちにアメリカとソ連間で地下核実験制限条約が著名され、地下核実験での最大角出力を150ktに制限することが決められたが、1990年まで批准されなかった)。

それで1996年にようやく包括的核実験禁止条約(地下核実験も禁止対象)が国連総会で採択され、186か国が署名し、178か国が批准したが、発効要件国とここで設定されている核兵器保有国を含む44か国が批准していないため、未発効である。

ICBUW代表で国際法専門家であるManfred Mohr氏(今年もかざぐるまデモで演説してくれた)は、ここで興味深い話をした。2021年に核兵器禁止条約(TPNW)が発効したが、これは、発効要件が厳しかったために包括的核実験禁止条約がいまだに発効できないでいることからの教訓を得て、発効に必要な批准国数として50か国と設定したため(さらに核兵器保有国を含むとしない)、それで発効が実現できた、ということだった。この核兵器禁止条約の国連総会での採択や条約の推進には、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)とそこから独立して結成されたICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が大きく貢献しており、それで2017年のノーベル平和賞を受賞しているのだが、残念ながらここには核兵器保有国だけでなく、いわゆる「核の傘下」を謳っているドイツ・日本を含め、ほとんどのNATO加盟国も署名していない。それでも、この締約国会議では、例えば実際に核実験で汚染され、被害者援助や環境修復に関する国際信託基金を作ることや、環境修復するための科学顧問グループなどを作るなどの検討会議が開かれている。そこに去年まではドイツもオブザーバーとして参加していたのだが、ウクライナ戦争などから地政学的状況が変わった、ということを理由に今年3月の会議にドイツはオブザーバーを送ることをやめてしまった。そのことに対する批判もこのディスカッションでは出された。ちなみに日本はヒロシマ・ナガサキ原爆投下を体験した国でありながら、オブザーバーにすらなったことがない。

それでも、このサイレントフォールアウトの中で描かれている、子どもたちを守るために乳歯を集めて検査し、政治を動かした女性たちのように、政治家、専門家のいいなりになることなく、自分や自分の愛する人たちの健康、生活環境を守るために情報を集め、自分が納得できない場合にはとことん調査し、データ収集してそれを同じ懸念を持つ仲間同士で共有し合い、話し合って、抵抗しなければいけないところではしっかり抵抗する、声を上げる、改善を求める、そういう市民運動がいかにこれからも欠かせないか、結局は自分の生を自分で守っていくために市民が力を合わせていくしかないという、連帯や市民運動の重要性を確認して、ディスカッションを終えた。(ゆう)