おしどりマコ講演会 2019 報告 (3)

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書籍: 放射能測定マップ+読み解き集

おしどりさんは講演で書籍の「放射能測定マップ+読み解き集」を紹介されました。これは情報は自分で集めないと信頼できないと考えた人たちが各地で放射線の市民測定を行いはじめたことがきっかけです。後にネットワーク化しようという人たちもあらわれ,その結果できた本,ということです。(草の根的に行なわれたことなどがあり,このネットワークに加わっていない市民測定の人たちもいるようです。) この本では, 4 千人以上の人々が 3 千地点以上の土を測定してまとめています。

https://minnanods.net/

東京の汚染に関しては,流通している食物を調べている限り,まず汚染はないということです。ただし山菜などの汚染は残念ながら残っていることが報告されています。

2019-02-06 放射能測定マップ+読み解き集の紹介
2019-02-06 放射能測定マップ+読み解き集の紹介

都市濃縮現象

東京大学の発表ですが,東京の一部の土地に放射性物質汚染が観測されることが紹介されました。

これはコンクリートが多く,放射性物質で汚染された水が濃縮してしまいホットスポットとなる現象がみつかっていることです。

このホットスポット調査をしている人々がいてその紹介がありました。5 cm 高での測定で,3.3 マイクロシーベルト/h も見つかることがあるそうです。(これは一様に汚染されていることを前提として空間線量の測定方法,地上 1m での測定,とは異なりますので,通常の空間線量とは比較できないことには注意が必要ですが,ホットスポットの場合には有効です。) この方々は測定して汚染された公園などがみつかると,行政に除染を願い出るなどして東京都民の安全のためのボランティアをしているそうです。私はこれはボランティアに頼るのではなく行政が組織的に調査をしても良いのではないかと思います。

2019-02-06 東京のホットスポット調査をしているボランティア紹介
2019-02-06 東京のホットスポット調査をしているボランティア紹介

オリンピックと復興の関連

会場からは,オリンピックの安全や,オリンピックと復興の関連について以下のような意見や質問がありました。

Q: アンダーコントロールの発言で誘致したオリンピックであったが,汚染水問題など現状ではアンダーコントロールであるかの疑問がある。そのあたりはどうお考えか?

A: 誘致の 10 日前に,フクシマでは,汚染水漏洩で level 3 の事故を起こしたため,東電にはそのような状況で総理にアンダーコントロールと報告したのかとの質問が記者からあった。しかし,東電自身からは,彼らも発言の意味を理解できず政府に趣旨を問い合わせているという回答であったという。確かにアンダーコントロールかどうかは疑問がある。

Q: 日本にいた頃は,国が決めたポジティブな政策には反対しにくい雰囲気を感じていた。復興を先に確実にして欲しいとはいえ,だからオリンピックに反対というのは言いにくいかもしれない。日本国内ではどういう雰囲気があるのか?

A: 確かに「オリンピックは復興の助けになる」,ということを言う人もおり,それに疑問を呈すると,復興を妨げるのか,反県民,反村民などと言われる場合がある。そもそも東京にスタジアムを作って福島の復興になるという部分がわからないので,復興の助けになるのならそのロジックを丁寧に説明して欲しい。しかし,議論がかみあわないようなこともしばしば見うけられる。もう少し冷静に福島や日本の将来を考えて議論ができると良い。

議論の時,おしどりさんからは補足として以下がありました。

先の福島第一の高濃度汚染水タンクの解体作業に外国人研修生が利用された事件も,オリンピックの建設関係に人手が取られて,福島の復興には人手が不足してしまっている場合があり,そこに外国人労働者があてられる場合があるという指摘がありました。

最近の報道でも,「『新国立競技場は間に合わせるけれど、被災地は遅れたって構わない』。そう言われているようだ」という岩手の復興にかかわる人の談話がありました。(https://digital.asahi.com/articles/ASM330D32M32UTIL02K.html)

2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けた首都直下地震対策ロードマップ

政府は東京に直下型地震が来た場合に防災する計画を発表しています。オリンピックと関連した情報は以下のようにいくつか公開されています。国土交通省の見解では,オリンピックの年付近の地震の可能性が排除できないので,どのように対策を練るかということに関する情報です。

国土交通省防災ポータル
http://www.mlit.go.jp/river/bousai/olympic/index.html
http://www.mlit.go.jp/river/bousai/earthquake/pdf/earthquake/7kai-ref02-01.pdf

我が国の地震対策の概要
http://www.bousai.go.jp/jishin/gaiyou_top.html

我が国で発生する地震
http://www.bousai.go.jp/jishin/pdf/hassei-jishin.pdf

最終処分場に関して

除染した際の除去土壌の処理については,中間貯蔵を福島がうけおうが,福島には最終処分場は作らないことで政府との合意がなされています。30 年を経過した後に福島の中間貯蔵除去土壌は県外に移されることになっており,そのための法律も成立しています。

しかし,2019 年現在,福島県外で最終処分場を受けおう場所のめどがありません。そこで,特定の場所に最終処分をするのではなく,日本全国で除去土壌を再利用するという考えが検討され,そのための実験が開始されています。

中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/

最終処分場を負担する場所が一箇所もみつからないのなら,日本全国に分散させて負担するという考え方ですが,私にはあまり良い考えに思えません。しかしではどうするのかということは難しい問題です。ただ,私に一つ確実に言えるのはこういう問題を今後拡大しないために,早期に原子炉を廃炉にし,廃棄物をこれ以上増やさないことです。しかし,廃炉をするにしても最終処分場がない現状では中間貯蔵などで問題を先送りにするしかなく,我々は子孫に負担をおしつけることになります。

ここでまず,汚染土を日本中に分散させる方法しかないのか? ということが疑問です。多くの市町村が受け入れることになるでしょうが,その受け入れ地との議論やコンセンサスを得られるのか,という疑問が残ります。一方で福島に全てを負担させるわけにもいかないこともあると思います。これは我々が今後直面していく問題です。既に法律で時間も区切られました。そこで,上記の環境省の資料は一読の価値があると思います。その中には,「再生利用の必要性や放射線に係る安全性に関する知見を幅広い国民と共有し」ということも書かれています。現時点で私はこの部分はほとんどなされていないのではないかと感じています。これは議論していく必要のある問題だと思います。

また,これまでは中間貯蔵場,または最終処分場にしか置けないとされていた汚染土が,リサイクル可能にされる場合は問題です。福島は最終処分場にはしないという約束で汚染土を 30 年間受けいれました。しかし,何かの理由や処理により「汚染土」が「リサイクル可能土」へと変わることが可能になる場合がでてきます。このため,汚染土として集められた土が,福島県内であっても,実質的に永久に処分されることが制度上可能になります。その場合どのように処理するかの条件などがあるでしょう。そして,名目上は最終処分ではなく,リサイクルされたということになるのではと思います。しかし,私はこれには問題があると思います。

現状では経済と原発の関係について議論もありますが,廃炉と最終処分と経済という部分の議論はあまりみかけません。ドイツの Greifswald で実際に廃炉を行なっているところからは,廃炉の費用は 1 基あたり日本円で 5000 億円では難しいことが報告されています。また,イギリスの Nuclear Decommissioning Authority https://www.gov.uk/government/organisations/nuclear-decommissioning-authority
では,この廃炉や最終処分の費用の見積りが年々上がっていき,2015 年には 1600 億ポンド,20 兆円を越えた金額です。しかし,国会の質問では日本ではこの 10 分の 1 程度,1 基あたり数百億円でできるという話になっています (例,衆議院での質問 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a196413.htm) 既に廃炉作業を 30 年以上すすめている実績のある所の価格よりもまだ大型の商用炉で廃炉を行なっていないところがなぜこんなにも安くできると見積っているのかが判明しません。イギリスは日本よりも早く原発を作ったので,既に廃炉作業に入っている原発がいくつもあります。私にはどちらの価格が正しいのかが判断をできないのですが,実績のある複数の数の方を考えると,廃炉と最終処分は,経済,特に日本の今後の国際競争力に重くのしかかってくることを危惧します。私たちは子孫の経済に足かせをつくっているのではという心配がぬぐえません。少なくともどれだけの負担になるかの見積りが必要で,そして計画をたてて対処が必要です。そのためにも最終処分場の議論がもっと進まないとまずいと思います。それは国の経済が将来どうなってしまうのかにかかわる問題であると思います。

おわりに

フクシマの問題は様々な面で終わっていない,あるいは新たな問題が始まっていると私は感じました。事故当時の人たちの健康の問題,帰還して農業を始めた人たちの問題,外国人労働者の問題,汚染土の問題,など,これだけにとどまらず,汚染水の問題もあります。起きてしまった事故に対しては,それをどうするかそれぞれを考えていかねばならないこともいくつもあることがわかりました。一方で,もうこれ以上の問題を起こす可能性もつみとっておく必要をまた強く感じました。そして子孫への負担をできるだけ押しつけないために,一つできることがあります。それは再生可能で,持続可能なエネルギー源に我々ができるだけ投資をしておくことです。石油もウランも世界でとれる地域は限られ,かつ,いつかは枯渇する資源です。我々が子孫に残すものが核のゴミだけになってしまうとしたら,なんともひどいことではないでしょうか。少なくとも日々の生活に必要なエネルギーは子や孫に残しておくべきだと思います。[:]

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