おしどりマコ講演会 2019 報告 (1)

[:ja]2019 年 2 月はじめ,おしどりマコさん,ケンさんがフランクフルトのエキュメ二カル (http://www.zentrum-oekumene.de/)などの協力でヨーロッパのエネルギー政策に関して学ぶためにヨーロッパの一部を回られました。その際,SNB も日本の状況についての情報などを伺いたいとベルリンへの招待をし,今回それがかないました。2月 6 日に Versammlungsraum im Mehringhof Gneisenaustraße 2a, 10961 Berlinにて一般に公開された形で 19:00 から 22:00 までの講演,質疑応答がありました。

このブログはそこでの議題や質問,応答などのまとめです。

news clip
2019-02-06 おしどりマコ講演会

おしどりマコさんの自己紹介と原発問題へのかかわり

2011 年にはおしどりマコさんはテレビの仕事をしていました。フクシマの事故の際,東京は大丈夫という報道を聞いていました。一方,多くの有名な俳優など仕事の関係者が東京から避難をする場面に出会い,また,仕事では,視聴者に心配させないように「原発」「爆発」という言葉を使わないようにという通達を受け,いったい何が起きているのだろうという疑問を持ったそうです。それがきっかけで原発事故の取材を始め,2011 年 4 月から東電の会見に出席するなど,原発関係の情報に触れるようになりました。

東電の会見は最初の頃には国民の関心も高く,100人以上のジャーナリストが参加していたとのことですが,近年は 10 人以下であるということです。また,新聞社などのプロの記者には数年での人事異動があることがあり、当時から現在も取材に来ているのは,おしどりさんくらいということです。その上,東電側の説明側もやはり人事異動があり,人の入れ替わりがあり,また,以前の人と報告が一貫しないということもあるということです。講演では東電側の説明する人と時間経過のグラフを拝見できました。

2019-02-06 Tepco 記者会見人物変遷図
2019-02-06 Tepco 記者会見人物変遷図

情報の変遷の例

当時の説明と異なる例としては,山下俊一氏の 2011 年 3 月に行なわれた「福島県放射線健康リスクアドバイザーによる講演会」での「危険だと思いすぎる方が健康に被害がある」といわゆる「ニコニコしていれば放射線の影響が避けられる」という発言がありました。これについては日本国内のみならず,世界の主要誌が本人へのインタビューを行ない世界中の新聞,テレビで有名になりました。例えば現在でもイギリスのガーディアン (https://www.theguardian.com/world/2012/mar/09/fukushima-residents-plagued-health-fears),ドイツのシュピーゲル (http://www.spiegel.de/international/world/studying-the-fukushima-aftermath-people-are-suffering-from-radiophobia-a-780810.html) などの記事が読めます。後のインタビューでは,本当の意図は福島県民がおびえているので,それを緩和するためだったという発言もみうけられます。筆者もこの講演をビデオで拝見しましたが,あの講演で,専門家の発言だから信じてしまって大丈夫だと思った人もいたかもしれません。それによって被曝をうけた人はどうすればいいのであろうかという疑問が残ります。しかし,これは新しい情報というわけではありません。今回の講演で指摘されたのは,2019/1/28 東京新聞こちら特捜部の<背信の果て>((2)「ニコニコ」発言の一方で被ばく「深刻」真意はhttp://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019012802000128.html)の記事では,山下氏が大丈夫と発言していたほぼ同時期に,彼は子どもの被ばくについて「深刻な可能性」と政府への見解を示したことが記録されていたことが報道されたということでした。当時の情報で一般に知られていなかったことが現在になってでてきていることがあるというもののいくつかの例の 1 つとしてこれが紹介されました。

2019-02-06 情報が変遷する例 2019/1/28 山下氏の見解記録
2019-02-06 情報が変遷する例 2019/1/28 山下氏の見解記録

復興庁の「放射線のホント」について

復興庁が「放射線のホント」という冊子を以下のように公開しています。

http://www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2017/senryaku/pdf/0313houshasen_no_honto.pdf

この放射線のホントについて,おしどりさんからの指摘は,「日本の食品基準は最も厳しいとされています。」という部分についてです。これは基準が厳しく食は安全という意味で使われています。しかしその検査量に関しては特に他国と比較して厳しくより安全であるというわけではないということでした。つまり検査の量が少なければ,結果としてこの安全基準が厳しいにもかかわらず,実際には検査されていないものが流通する可能性があるというものです。検査数が少ない場合,基準を越える Bq/kg の食品が流通される可能性が上がります。おしどりさんの示した資料では確かに日本の場合,そのような基準を越える Bq/kg の食品の流通される可能性の上限が他の国よりも多くなっていました。

これについてこのブログを書くにあたって私も少し調べましたが,直接の資料がでてきません。次回の機会におしどりさん達に詳しく確認できればと思います。しかし参考になる資料はあります。厚生労働省医薬食品局食品安全部長名での書類 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xqoq-att/2r9852000002xqxc.pdf では,調べる指標は市町村ごとに 1 検体や 3 検体となっています。

復興庁の「放射線のホント」では確かにどれだけの量を検査するとは書いていません。私は最初はたとえば,出荷のロットごとに検査しているのだろうと誤解していました。それは私の勉強不足でもありますが,今回調べてはじめてどのような検査かわかりました。私の知る範囲でも通常の生産品に関しては,どれ位の流通量で誤りがあるのかを元に,たとえば 97.5 % の信頼区間でどうするかということを考えて抜き取り検査量を決め,さらに恣意が入らないようにどのような抜き取り方法をするかを決めるのが普通です。ところが,そのような通常の品質管理手法ではなく,市町村で1 つや 3 つという検査手法の指導がみつかりました。もっと詳しく知りたいのですが,私の知った限りでは,それぞれの検査して出荷できなくなる食品の Bq/kg の値は,日本は他の国などより確かに低い値です。ところが,検査をどれだけして,検査から漏れてしまう可能性をどれだけ減らすか? の部分は日本の方が漏れる可能性が高い値が採用されていました。これで本当に他の国よりも安全基準が厳しいと言えるのか,というのがおしどりさんの指摘です。この冊子の比較方法では,検査方法を含めた比較になっていないというのは,私のような素人には指摘されなければわかりません。

私が以前住んでいた宮城の仙台では,事故の後に信頼をとりもどすために自主的に上記のように,全部のロットからサンプルを抜き出して検査をしている生産者があるという話を聞いていました。このような売り手や市民の意識が高いということが,全てにあてはまるかは不明です。そのため,公的基準に頼る部分がでてくることになりますが,それを説明する冊子で書かれていない部分があるということを指摘されると,疑問が生じます。

この復興庁の「放射線のホント」については,私は書いてあること自体はそれなりの情報のように思いました。しかし,一方でこのように,書いていないことがあるというのが難しいと感じました。市民はより賢くないといけないとまた考える場面に出会いました。今回の講演でこういう情報を共有できたことはありがたいことでした。

福島第一の高濃度汚染水タンクの解体作業

現在,被曝の多い作業としては高濃度汚染水タンクの解体作業について紹介がありました。

2012 年に作ったタンクは急いで作ったこともあり,フランジ型 (ボルトでしめつける方式) の溶接をしていないものだったため,2013 年に継ぎ目から水漏れが発生していることが判明しました。そこで,その対策として 2015 年以降に溶接型の制作に変更になり,古いタンクからの水の入れ替えが必要になりました。 http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2018/12/3-1-2.pdf

この作業は全部の機械化はできず,最後にタンクの底に残った水を人間がモップでふきとるという作業があります。これがここでの最も被曝する作業とのことです。この作業を立案する際,労働者の安全性はどれだけ考えられたのかは不明ですが,被曝を避けられない形の作業になっています。そしてそこで海外からの労働者,海外技能実習者が働いていたことも問題となりました。このブログを書くにあたって調べてみるといくつかの記事がありました。たとえば https://mainichi.jp/articles/20180315/k00/00m/040/082000c がそうです。

これはベトナムで社会問題化し,ベトナム政府から日本政府に問い合わせがあったこともあり,日本では法律が改正され,2018 年から実習生には福島の除染作業はさせないことになったということです。しかし,技能実習制度は請負会社が扱っている場合があり,法律改正前の実態があまり把握されていません。実習生は経済的に立場が弱い場合もあり,やめようにも違約金が高かったりという問題もあるようです。今回発覚したのは,労働組合に助けを求めたケースでした。そのように助けを求めなかったケースなども調査が必要と感じました。この調査をせず,日本が安心して働ける場所かどうかわからないということになれば,今後の労働者確保にも問題が出ることでしょう。

2019-02-06 汚染水タンクの解体作業
2019-02-06 汚染水タンクの解体作業

農家の放射線健康管理について

講演では日本の法律では,40000 bq/m^2 以上の場所は放射線管理区域とされていて,事業者が健康管理の義務を負うと説明がありました。(ただ,筆者が知人に指摘されて調べたところ,これは医療法管理区域で,おそらく外部放射線についての実効線量が 3 ヶ月あたり 1.3 mSv の放射線管理区域のことだと思います。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E7%AE%A1%E7%90%86%E5%8C%BA%E5%9F%9F)

農家の場合,農地と住居は除汚されてそれ以下になっている場合がありますが,自宅から農地までの間に放射線管理区域に相当する地域がある場合があります。管理区域の設定も原子力発電所や病院などを想定していて,このように広域に放射性物質が拡散してしまった場合を法が想定していないようです。http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-05-03

このような線量としては管理区域の基準に該当してしまう場所のある農家が市などに問い合わせをしたところ,農家は自営業であり,この法律は適用されず。管理責任は自分にあるとの回答でした。しかし,責任は農家にあると言われても,実際問題としてそれでは困るでしょう。

それに関連するものとして,2016 年の 11 月 11 日に農作業における放射線対策と健康講座が,福島県川俣町で行なわれました。

探した所,以下から資料がダウンロードできます。https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/259689.pdf

受講者の方から作業や汚染地域で気をつけることに関しての質問がでたようですが,ほこりは息を止めるなどできるだけ吸わないようにする。作業後には着替えをしてほこりを家に持ちこまないようにする。との回答にがっかりされたかたも多かったそうです。ただ,筆者はこの説明会はある意味正直である気もします。既に汚染されてしまった地域で他に有効な対策が不明だからです。本来は,そこに帰還するしか選択肢のなかった方々にはどうすればいいのかという議論が必要なのではないかと思いました。あるいはこのような放射線の問題が回避できない状況で,なぜ制度として帰還できるような判断が下されたことに対する議論はどうだったのでしょうか。このパンフレットには放射性物質の入ったほこりをあびたらどうするかなどの対策で,服を洗う,マスクをするというようなもので,会場からはそこに疑問の声もありましたが,私は一方でその場の人たちに役場の人たちは他に説明ができないのではないかと思いました。私はこの役場の人たちがなぜこのような説明をしなくてはならないような状況になっているのかを疑問に思いました。

これに対しては被曝に関する健康問題に対して対策をとってほしい人たちが市や国と交渉を始めたということでした。

私はこのパンフレットや説明会でもまた,問題はここで議論されていないことや,このパンフレットに書かれていないことのように思いました。そもそもなぜ,その土地にいるというだけでその人たちが放射性物質と共存しなくてはいけないのでしょう。その人たちが自分達の土地を放射性物質で汚染して欲しいとお願いしたわけではないはずです。放射性物質と共存したくてしているのでなければ,そうなってしまった原因こそが問題です。洗濯をしましょうというのは対処法にすぎず,それは確かに現状ではそういうことしかできないかもしれません。しかし,ここではもっと大きな問題が見えなくなっているように思いました。[:]

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です